見出し画像

コロナを越えて④人との関係、より密接に

興正派眞教寺住職・TSO International代表 佐々木剛氏

※文化時報2020年7月4日号の掲載記事を再構成しました。

 真宗興正派の眞教寺(高松市)住職で、日本最大の葬祭展示会「エンディング産業展」などを主催するTSO International株式会社(東京都新宿区)の佐々木剛代表は、新型コロナウイルス終息後の社会を「人との関係性が、より密接になる」と予想する。オンラインを用いたセミナーや開発支援などの新規事業をスタート。「思い通りにならない世の中を実感した。会社のあり方自体から変えたい」と話し、僧侶、そして経営者としてコロナ後の世界と向き合う。(編集委員 泉英明)

 佐々木剛(ささき・つよし) 1974年12月、高松市生まれ。真宗興正派眞教寺住職。明治大学法学部卒業後、外資系展示会会社に就職。独立系展示会会社の取締役を経て2011年、TSO Internationalを設立した。同社の「エンディング産業展」には、伝統仏教教団もブースを出展している。父の余命宣告を機に10年に得度。翌11年に住職に就任し、東京と香川を往復しながら法務をこなしている。趣味は読書。

会うことを深く考える

──「第6回エンディング産業展」が11月に東京ビッグサイトで予定されています。

 「展示会は経済活動のエンジン。単なるイベントとは趣が違う。11月の時点で緊急事態宣言が出ていない限り、影響なく開催できる」

 「コロナ禍前と違うのは、展示会のガイドラインに沿っていただくこと。ブースの作り方や来場時の注意点、マスク・フェースガードの着用、手指の消毒などを定めている。今後は経済活動をストップしていた反動がプラスとして働く。むしろ展示会は規模を拡大できるのではないか」

 《コロナ禍は人々やビジネスのあり方にさまざまな影響を与えた。対面することが感染拡大をもたらすとされ、職場にもリモート勤務が導入された。佐々木代表は「だからこそ人の関係性がより密接になる」と語る》

──感染症によって、人の関わり方が変わっています。

 「これからは人と会うことの大事さを深く考えるようになる。とにかく人と会うという営業ではなく、顧客調査をしっかり行い、選別した上で人と会うことになる。選別によって、大切な人との関係性は密接・密着化する」

 「コロナ禍の数カ月は『思い通りにならない』という浄土真宗の教えを改めて実感した。生き方を変えなければならないタイミングだった。執着をいつでも捨てられるような心の持ちようが大切だと考える。私たちにできることは小さいことで、あとは仏さまのみ心のままだ」

ウェブで事業拡大「震災よりまし」

 《香川県で420年続く寺に生まれ、法律家を目指して進学したが、外資系の展示会主催企業に就職。後継者だった兄や住職である父の死を契機として、2011年に住職となった》

──企業家と住職。二足のわらじを履かれています。

 「父が10年に大きな病気をし、余命宣告を受けた。11年に会社を辞めて帰ろうとしたが、『事業を自分でやればいい』と勧められ、11年3月に起業した。12月に初めての展示会を東京ビッグサイトで行ったが、その間に父が亡くなり寺を継いだ。その頃は忙しすぎて記憶がない」

 「会社を立ち上げたのが11年3月1日。直後に東日本大震災が起こった。12月の展示会初日に参加企業から『よかった』という感想を聞いて、やっと生きた心地がした。その時のスポーツ産業の展示会『SPORTEC』は、今では7倍の規模になり、アジア最大にまで成長した」

 「起業時の『何もできない』という絶望感は、コロナ禍よりも強烈だった。今は壊滅的な被害もなく、行動が自粛されただけ。むしろゆっくりと今後の展開を考える時間があった」

 《会社の主力事業は展示会の主催。感染拡大への配慮で、各種展示会は延期せざるを得なかったが、ウェブを用いた新たな事業展開を進め、すでに利益が出始めているという》

7-4経済面1

──コロナ禍でも事業形態を拡大されています。

 「この機に三つの転換を図った。一つ目は『ビジネスのありようを変える』。大きな柱である展示会に、オンラインでの販売促進支援を加えた。二つ目は『オフィスをなくす』。テレワークが一般化し、誰もが通勤や集まって仕事をすることに疑問を感じている。三つ目は『全国採用』。われわれの仕事は展示会以外で作業が発生しないからだ」

 「オンライン販促の柱は、セミナー事業と、開発支援に向けた情報集約事業だ。セミナー事業は6月に開始した。受講料やスポンサー料をお預かりし、500人から数千人に商品PRができる場所を提供して販促をお手伝いする。情報集約事業は、ウェブで発信された製品開発への課題などを解決するために専門家とマッチングする」

 「売れる製品は情報の先にある。例えば、未来の葬儀の在り方をウェブ上で集めて発表する。課題をオンライン上で集約し、専門家がエビデンス(根拠)を発信する。その情報を得た人がソリューション(解決策)を求め、企業との共同開発につなげる」

 「ウェブの一番の利点は情報を得られる点だが、その先の信頼性などは弱点だ。そこからは対面での商談、もしくは展示会の場に持ち込んでもらう。今月中にも本格化させたい」

利益は喜捨の集合体

 《東京と香川を往復しながら、義理の弟である副住職と共に法務などをこなす。現場で活動する宗教者として、企業の社会貢献を問い続ける》

──経営者であり、現役の宗教者でもあります。

 「宗教観は人それぞれだが、お寺に来られる人は結構悩みを持って来られると感じている。仏教は悩むことそのもの。お釈迦さまは悩みを元に苦行して悟りを開かれた。悩みは人との関わりで生まれる。怒りを吸収し、悩みの根源を解決するためのツールが仏教だ」

 「会社経営は、むやみに利益を追わないことが肝心だ。利益は人々が与えてくれる喜捨の集合体。とらわれすぎると、『人々の喜びにつなげる』という目的が変わってしまう。幸い事業自体はコロナ禍の今年も含め、10年連続で売り上げが伸びている。今後もチーム一丸となって、テクノロジーに応じた情報を届けたい」

7-4経済面2

 私たちは宗教専門紙「文化時報」を週2回発行しています。皆さまの「スキ」と「フォロー」をお待ちしております。
 お問い合わせ・ご購読のお申し込みは、文化時報ホームページまで。http://bunkajiho.co.jp/contact.html

サポートをいただければ、より充実した新聞記事をお届けできます。よろしくお願いいたします<m(__)m>