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日本の宗教界は、タリバンを注視すべきだ

※文化時報2021年8月30日号の社説「タリバンを注視せよ」の全文です。

 イスラム原理主義勢力タリバンが、アフガニスタン全土を支配下に置いたと宣言し、実権を掌握した。今月17日に首都カブールで行った制圧後初の記者会見で、報道担当者は「イスラム法の枠内」で女性の就労・就学を認めると述べ、国土をテロ組織の温床にしないと表明した。

 日本の宗教界は、動向を十分に注視する必要がある。

 現地で教育支援事業を行ってきた曹洞宗関連の公益社団法人シャンティ国際ボランティア会(SVA)は、全職員の無事を確認したという。山本英里事務局長は、同会ホームページに公開した16日付の文章「【アフガニスタン】人道援助の継続を」でこう記した。

 「タリバンは幾度となく『あのタリバンとは違う』と声明を出しています。人々はこの言葉に希望を持つしかない状態です」

 記者会見で繰り返された「イスラム法の枠内」という概念は、タリバンが自分たちの都合で解釈をいかようにも変えられることを意味する。すでに女性への権利制限が始まったとの報道もあり、予断を許さない。

 タリバンは、イスラム神学生らが結集した武装勢力だ。1996~2001年の旧政権時には、女性に対して外出の自由を認めないなど、人権を抑圧した。国際テロ組織アルカイダ指導者のウサマ・ビンラディン容疑者をかくまい、01年の米中枢同時テロ後も米国への身柄引き渡しを拒んだ。

 さらに、偶像崇拝を排除し、仏教遺跡バーミヤンの巨大石仏を破壊した。仏教徒のみならず国際社会から非難が相次ぎ、浄土真宗本願寺派は当時の総長名で「深い悲しみと怒りを覚える」などと抗議文を出した。

 私たちの友人であるイスラム教徒(ムスリム)は、考え方や行動がずいぶん異なる。本来のイスラム教は平和を愛し、女性に優しく、他の宗教にも寛容な宗教だ。私たちはまず、イスラム教が危険であるという誤解と偏見を払拭しなければならない。その上で、タリバンがいかに極端な集団なのかを知るべきであろう。

 「一隅を照らす」を座右の銘とし、現地で医療・農業支援に当たっていた医師の中村哲さんが凶弾に倒れたのは、2年前のことだ。朝日新聞は、前政権の捜査当局がイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)の男を主犯格と特定したと報じたが、TTPはタリバンと一定の関係があるとみられている。私たちはタリバンにも事件の真相究明を求めていかなければなるまい。

 タリバンが生まれた背景には、旧ソ連のアフガニスタン侵攻があった。さらに米国との約20年にわたる戦争を経た今、彼らに銃を捨てさせるのは困難を極めるかもしれない。

 それでも、人道支援を続けてきた日本には、できることがあるはずだ。とりわけ信仰に生きる者同士ならば、たとえ宗教は異なっても、対話と相互理解を深められよう。日本の宗教界に期待したい。

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