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日本看護学会に僧侶登壇 協働探る

※文化時報2021年10月7日号の掲載記事です。写真は浄土真宗本願寺派妙行寺(鹿児島市)で行われた「まちの保健室」。

 第52回日本看護学会学術集会が9月28、29の両日、オンラインで開催された。看護職を対象とした日本最大級の学会で、「看護の力で健康な社会を!」をメインテーマに、講演やシンポジウム、交流集会などを実施。僧侶と協働する「看仏連携」に関する発表もあり、看護師や看護学生らの関心を集めた。

 僧侶らが登壇したのは、29日に行われた大阪府看護協会による公募企画「『看仏連携』、もう一つの在り方~『自分らしく生きる』を支える」。看仏連携研究会代表で臨済宗妙心寺派僧侶の河野秀一氏、浄土宗大蓮寺(大阪市天王寺区)の秋田光彦住職、浄土真宗本願寺派妙行寺(鹿児島市)の井上從昭住職が発表した。

 河野氏は、檀家・門徒への抜苦与楽を行う僧侶と、生老病死に向き合ってケアする看護師は「共に同じ方を向いている」と指摘。寺院をコミュニティーや学びの場として活用してはどうかと提案した。

 秋田住職は、自坊で行った終活に関するイベントに触れ、「私たちは終活を葬儀やお墓だけの問題とは考えていない」と強調。お寺の中に訪問看護ステーションを設け、在宅での看護や看取りに乗り出していると説明した。

 井上住職は、地域住民と医療・福祉職による「縁起でもない話をしよう会」や、まちの保健室=用語解説=などの取り組みを紹介。「病院を飛び出して地域の健康を支える看護師に、僧侶も協力し、生活やいのちを助けることが大切」と語った。

 座長を務めた大阪府看護協会の高橋弘枝会長は「看護職が連携・協働する相手は医療・福祉関係者だけではない。患者と家族が暮らす地域の資源に注目する必要があり、看仏連携をもっと広めたい」と述べた。

病棟看護師も「看仏連携」に期待

 大阪府看護協会による公募企画では、緩和ケア病棟で臨床宗教師=用語解説=と協働してきた金沢文庫病院(横浜市金沢区)の主任看護師、竹波純子氏も登壇。「病院における看護師と僧侶との連携の実際」と題して発表した。

 竹波氏は、昨年まで勤務していた上尾中央総合病院(埼玉県上尾市)緩和ケア病棟での取り組みを紹介。人生の意味への問いや死への恐怖といった「スピリチュアルペイン」は、医療だけでは対処できないと指摘した。

 その上で、「患者の物語を大切にする対話によって、新しい気付きや価値観が得られる」と語り、臨床宗教師がチームに入ることの有用性を示した。

 具体的には、関東臨床宗教師会の協力で行われている病棟内のカフェで、患者らが数珠を作った後、臨床宗教師と共に願い事を込めることを通じて、特別なものと感じられるようになったエピソードを挙げた。

 患者にとっては「宗教的な背景がある臨床宗教師が相手なら、自分の死について忌憚なく話せる」という利点があり、僧侶については「生老病死を生活の視点で支援する本来の仏教の役割を元に、対話している」と特徴を説明した。

 さらに、僧侶への期待として「かつてのように、生まれた時から共に歩んで見守る存在となり、精神保健活動やグリーフ(悲嘆)ケアの担い手となっていただければ」と語った。

 質疑応答では、病院では僧侶が「縁起でもない」と思われかねないとの懸念も示された。竹波氏は「患者・家族には『宗教を背景にした方々だが、宗教の話をするわけではない』と伝えている。苦しみについて勉強している僧侶だと紹介すると安心する人は多く、話しているうちに『僧侶で良かった』と言う人もいる。いることが当たり前になれ
ば、解決していく」と話した。
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【用語解説】まちの保健室
 学校の保健室のように、地域住民が健康などさまざまな問題を気軽に相談できる場所。図書館や公民館、ショッピングモールなどに定期的に設けられ、看護師らによる健康チェックや情報提供が行われる。病気の予防や健康の増進を目的に、日本看護協会が2001(平成13)年度から展開している。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年3月現在で203人。

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