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コロナを越えて㉑一緒の旅で思い実現

真宗大谷派本通寺住職・株式会社モントトラベル代表取締役 北畠顯諒氏

※文化時報2021年12月13日号の掲載記事です。

 真宗大谷派本通寺(堺市北区)住職の北畠顯諒氏(71)は、国内外の仏跡巡拝などを企画する旅行会社・モントトラベル(大阪市西区)の社長を務める。インドやタイの仏跡はもちろん、ポーランドのアウシュビッツ強制収容所や、北米のインディアン独立自治領・イロコイ連邦への平和ツアーなども実施。「人と交わりながら、一緒に出掛けたい」との思いを胸に、仏教にまつわる「一生の思い出に残る旅」を提供し続ける。(編集委員 泉英明)

立場超えて出資

《モントトラベルは1986(昭和61)年、宗旨や僧俗を問わず全国の支援者12人が出資して始まった。国内外のツアーを年間20~30件手掛ける》

──創業のきっかけは。

 「教団内に、仏教関連のツアーを企画する部門をつくってほしいという願いがあった。だが、現実問題として難しく、ならば自分たちで起こそうと、志を同じくする人たちから出資を募った。浄土真宗本願寺派の僧侶や大学教員など、立場を超えた支援が集まった」

 「会社自体は第3種旅行業なので、単独で募集型企画旅行ができず、旅に夢を持つ人と共に企画しながら催行した。4~5人から40~50人まで、さまざまな規模を手掛けてきた」

──印象に残るツアーはありますか。

 「作家の高史明さんが同行したインドツアー。高さんは仏跡の夕日を見ながら、12歳で自死した息子さんの話をした。『中学生になって大人になったのだから、人に迷惑を掛けてはいけないと諭したが、迷惑を掛けていることが分かる大人になりなさいと言うべきだった』と語られた。何十年経っても忘れられない」

 「ダージリンで朝日の来迎を見た時は、『主人と一緒です』と写真を見せてくれた人がいて、帰りの車中で思い出話を聞かせてくれた。旅先の語らいは、その人の素の言葉を引き出す。語る方も聞いている方もすがすがしい時間を過ごせる」

北畠氏アフガニスタン写真

仏跡が破壊される前のアフガニスタンへのツアー

仏教目線で独自企画

《北畠社長は、僧侶として仏教の根本の願いである平和を考えるツアーも企画してきた。どのツアーも協力者らとの関係性の中で生まれ、仏教に近い独自の目線で行われる》

──アウシュビッツのツアーなどもあるそうですが。

 「現地で勤務する日本人学芸員の中谷剛さんが、到着から出発まで同行してくれる。初めて訪れた時に『食事なども一緒にしながら町を案内してくれる人が欲しい』と話すと、快く引き受けてくれた。参加者には、孫を連れてくる人もいる。その子どもらが学校で経験を語ってくれれば、周りにも平和への願いが伝わるはず」

 「大阪教区有志でベトナム、カンボジア、米国で平和法要を営んだこともある。ミュージシャンの喜納昌吉さんとジョイントし、黒船で開国を迫ったことに対抗して武器を楽器に持ち替える『白船』で、ニューヨークの国連本部に平和を訴えた。インディアン6部族のイロコイ連邦でも法要を勤め、意見交換をした」

──新型コロナウイルスの影響は。

 「大変な状況が続いている。2カ月前にインド政府からWFB世界仏教徒会議に招待されたが、日本側から出席へのストップがかかった。ツアー自体はまだ難しく、治療薬が普及するまで安心できない。ただ、出掛けたい人がいれば、感染症対策をしながら精いっぱいのお世話をしたい」

原点は子ども会

 《北畠社長の原点は、自坊の子ども会「ゴールデン・ディアー」だ。大学卒業直後から活動し始め、1996(平成8)年に公益財団法人全国青少年教化協議会の第20回正力松太郎賞を受賞した。教誨師や篤志面接委員をはじめ青少幼年と関わる活動を続けており、「人と交わること」を基本にしている》

北畠氏ラインスタンプ

ゴールデン・ディアーではLINEスタンプもつくっている

──子ども会活動の現況は。

 「約45年前、野外活動と仏事をミックスする形で始めた。日曜礼拝などをする月3回の子ども会と、月1回の父兄会を開いていたが、現在は休止中だ」

 「子どもたちから『きれいな海が見たい』と聞けば、船で安く行ける石垣島ツアーを行った。滋賀県の住職の協力を得て木の上にテントを張る宿泊ツアーも企画した。『体験したい人たちと一緒に出掛ける』という思いは、モントトラベルに受け継がれている」

 「『ゴールデン・ディアー』の語源は、釈迦が鹿だった時の前世の因縁を説いた『ジャータカ物語』。最近、物語が簡単に理解できる無料通話アプリ『LINE』のスタンプを作った。子ども会は休止中だが、以前来ていた子どもたちに孫ができる歳になって、また集まろうとしている」

 「『したいこと』『できること』『やらねばならないこと』の三つが重なると行動につながる基本は人との交わり。好きだからこそ、続けられている」

北畠氏

 北畠顯諒(きたばたけ・けんりょう)1950(昭和25)年3月、堺市生まれ。大谷大学文学部真宗学科卒。真宗大谷派本通寺住職。大阪教区仏教青年連盟委員長などを務め、自坊の子ども会「ゴールデン・ディアー」で第20回正力松太郎賞を受賞した。86年にモントトラベルを設立し、社長に就任。全国最年少の23歳で教誨師となり、篤志面接委員としても活動する。大谷派宗議会議員。
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