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〈20〉医療保護入院の実際

※文化時報2021年11月8日号の掲載記事です。

 精神科病院への入院は、本人の同意が原則として必要となる。しかし、精神障害がある人に医療や保護が必要であれば、家族らが代わって同意し、入院させる場合もある。

 先日、ある50代男性がこの医療保護入院となった。同意したのは、同居する80代の母親である。男性は精神科に通院しながらではあるが、母親の支えもあり平穏に暮らしていた。

 筆者が異変に気付いたのは9月半ば。男性が極端に痩せていた。とても心配になったが、男性は「大丈夫だから」と言っていた。

 10月に入って男性から頻繁に電話がかかるようになった。今までこんなことはなかった。男性なりに「SOS」を発信していたのだと思う。そして、警察に保護されることが続いた。母親は警察官に「事故に遭う危険がある」と再三言われたが、年老いた母親一人ではどうすることもできなかった。

 筆者は、男性宅からかかりつけの精神科医に電話して状況を訴えた。「すぐに連れて来なさい」と医師から指示があった。男性を車に乗せるのはとても苦労した。叫んだり暴れたりすることはないが、足が1歩ずつしか動かない。じれったいが、グッと我慢して根気よく寄り添った。

 母親も歩行器がないと外出できない。医師からは母親も連れてくるように言われていた。入院の同意書を本人に代わって書くためであることは分かっていた。しかし、具合の悪い男性と歩行困難な母親を車に乗せるのは骨が折れた。

 男性宅を出発したのは午前10時すぎだったが、入院の手続きが完了したのは午後6時を過ぎていた。本人の同意なしに入院させることに対し、医療側はとても慎重である。感染症への警戒もある。ドッと疲れたが、無事に医療へつなげることができ、ホッとした。

 緊急時に対処できるのは、日頃の見守りと信頼関係があればこそだと思う。今回のケースは、いわゆる「8050問題」でもある。家庭が孤立してしまうと悲しい結果になる。福祉仏教の活躍が期待されるだろう。(三浦紀夫)

 三浦紀夫(みうら・のりお)1965年生まれ。大阪府貝塚市出身。高校卒業後、一般企業を経て百貨店の仏事相談コーナーで10年間勤務。2009年に得度し、11年からビハーラ21理事・事務局長。上智大学グリーフケア研究所、花園大学文学部仏教学科で非常勤講師を務めている。真宗大谷派瑞興寺(大阪市平野区)衆徒。
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