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脱線事故から宗教者たちが学ぶこと

※文化時報2021年4月12日号の社説「脱線事故から学ぶこと」の全文です。

 台湾東部の花蓮県で2日、特急列車の脱線事故があり、乗客乗員50人が死亡、200人以上が負傷した。大変痛ましい事故だ。亡くなった方々に心からお悔やみ申し上げるとともに、けがをした方々の一日も早い回復を願う。

 日本でも衝撃が広がったのは、トンネル内で押しつぶされた車両の映像だけが原因ではないだろう。今年も「4・25」が近づいている。

 2005年4月25日朝、兵庫県尼崎市のJR福知山線塚口―尼崎駅間で、快速電車が右カーブを曲がり切れず脱線し、線路脇のマンションに激突。運転士を含む107人が死亡、562人が負傷した。JR福知山線脱線事故である。

 直接の原因は運転士の不注意によるブレーキ操作の遅れだったが、背景にはJR西日本の安全軽視の姿勢があった。余裕のないダイヤ編成やミスをした運転士への懲罰的な日勤教育、自動列車停止装置(ATS)の更新遅れなど、さまざまな問題が批判された。刑事裁判で歴代社長らは無罪とされたものの、16年近くたった今も、JR西には遺族と負傷者から厳しい目が注がれている。

 宗教界にとっても、この事故は無縁ではない。グリーフ(悲嘆)ケアを社会に知らしめるきっかけとなったからだ。

 JR西から「償い」について相談を受けたカトリック修道女(シスター)の高木慶子さんは、悲嘆に関する公開講座を提案し、07年10月に第1回を行った。これが、上智大学グリーフケア研究所設立の原点となった。

 同研究所は、実践と学術の両面からケアの在り方を探究してきた。カトリックの聖職者に加えて僧侶たちも、講師や研究員として人材育成に当たっており、19年3月には臨床宗教師養成教育プログラム認定機関に認定された。

 福知山線脱線事故は、JR西が安全対策を行う際の原点であり、宗教界にとってはグリーフケアやスピリチュアルケア=用語解説=に取り組む上での源流に当たる。被災地や医療・福祉の現場に入る宗教者たちは、この事故から連なる系譜に存在していると言っても過言ではない。

 学びは、多くの犠牲と悲嘆の上に成り立っている。行いは、自分と同じ思いをする人を二度と出したくない、という遺族の願いに通じている。こうした前提に立っていることを、改めて意識するようにしたい。

 台湾で起きた脱線事故もまた、愛する人を突然失うという体験を、多くの人々に強いた。遠い異国の話ではない。日本の仏教界には、台湾の僧侶と交流している人々がいる。できることがあれば、協力してほしい。

 今回の事故がトリガー(引き金)となって不意に16年前を思い出し、ショックを受けた当事者がいることは、想像に難くない。過去の出来事と考えるのは早計だ。せめて4月25日には、亡くなった方々を悼むべきではないだろうか。
       ◇
【用語解説】スピリチュアルケア
 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

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