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DX導入の是非問う 浄土宗総研が公開シンポ

※文化時報2021年2月25日号の掲載記事です。

 浄土宗総合研究所は15日、第41回公開シンポジウム「オンラインにおける寺院活動―デジタルトランスフォーメーションの潮流の中で」をオンラインで開催した。僧侶ら約170人が参加し、寺院活動へのIT導入を巡り、事例を交えながら考察した。

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、仏教界ではデジタルトランスフォーメーション(DX)=用語解説=への動きが急速に進んでいる。シンポジウムは、浄土宗僧侶らがDXのメリットとデメリットについて情報を共有する目的で開催した。

 今岡達雄副所長が「インターネットの進展と寺院活動」と題して基調講演。行政書士で葬祭カウンセラーでもある勝桂子氏が技術活用の前提となる僧侶の姿勢を問い直し、南米開教区クリチバ日伯寺の大江田晃義主任がブラジルでの導入事例を説明した。齋藤知明大正大学専任講師はフィールドワークでの活用事例を紹介し、文化時報社の小野木康雄社長兼主筆は、安易な導入へ警鐘を鳴らした。

 川中光敎宗務総長は「オンライン化が進めば、遠方の人や多忙な人、兼職をしている人も時間を割いて研修や講習に参加できる」と強調。小澤憲珠所長は「コロナ禍の緊急避難的な面がある。終息後の将来を見据え、寺院としての本質を見失わないようにすべきだ」と語った。
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【用語解説】デジタルトランスフォーメーション(DX)
 企業がデータやデジタル技術を活用し、製品やサービス、業務や組織などを変革して、競争の優位に立つこと。経済産業省が2018年、推進するためのガイドラインをまとめた。

基調講演:浄土宗総合研究所副所長 今岡 達雄氏

 インターネットは1969年の米国防総省によるARPANET(アーパネット)を起源とする。80年代から本格的に使おうとする機運が高まり、宗教界では90年代にカルト教団に利用されるという問題点が指摘された。2000年代にはネットで儀式を行う可能性が検討されたが、同じ信仰で結ばれた信頼感と仲間意識は作れないと判断され、利用が進まなかった。

 今日のネット社会において、寺院には二つの方向性がある。檀信徒の再教化と、新しい地平の開拓だ。NHK放送文化研究所の2016年の調査で、信仰している宗教がないと答えたのは62%。日本の総人口を掛け合わせた7800万人余りが、新しい地平と位置付けられる。

 DXを定義するなら、「デジタル技術を使った新しい生活様式・新しい業務様式を導入し、生活の満足度の向上・業務の効率向上を行うこと」となる。

 新型コロナウイルス感染拡大はDXをもたらしたが、一方で効率ばかりでなく、持続可能性を重視するサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が重要になる。新しい地平の開拓に、持続可能なDXを適用していくことが今後のテーマである。

目の前の苦を救え 勝 桂子氏

 オンライン導入には頭ごなしの否定論があるが、位牌や仏壇は見えない対象に祈っており、そもそもオンラインのようなものだ。本来の宗教は革新的であり、導入を避けなくてもいい。
 
 一方、法要のオンライン配信は、参拝経験のない人にとっては、寺院の荘厳な雰囲気をイメージしにくいデメリットがある。

 葬儀の簡素化が進み、法要のキャンセルが常態化してきた。映像葬など、葬儀のパフォーマンス化が進む状況にも懸念はある。今こそ、オンラインを活用してでも、精神面の補強をすることが必須だ。

 コロナ禍では、一般社会と寺院社会の間に溝を感じた。経済不安やコロナ鬱、女性や若者の自殺急増など、社会にはかつてないほど不安と苦が充満している。緊急避難的にオンライン化するのでなく、目の前の苦を救うために、仏教は何ができるかを考えてほしい。

オンライン法要に効果 大江田 晃義氏

 南米開教区のクリチバ日伯寺で、法要や仏教講座をオンラインで行っているほか、家族で行うラジオ体操を生配信している。特にラジオ体操は、日伯寺を訪れたことがない人も視聴してくれている。以前から会員制交流サイト「フェイスブック」を利用していたことも、後押しになった。

 オンライン法要だと、南米以外の在住者も参加でき、会う機会の少ない遠方の親族とも話せるので、喜ばれている。故人のためにお参りすることが、癒やしになっている。法話に力を入れるべきだと考えていたが、法要そのものに意義を感じるようになった。

 国境と距離を越えてつながるご縁がある。オンライン、オフライン関係なく、いいことはすべきだ。一人一人としっかり向き合い、寄り添うことが大切。目の前の人が何を求めているのか、僧侶としてできることを精いっぱいすべきだ。

関係性を再構築する 齋藤 知明氏

 フィールドワークにもオンラインを導入して、地域交流や社会貢献ができないか模索してきた。

 東京都豊島区の巣鴨地蔵通り商店街で行われる盆踊りを、オンラインで実施した。踊りはバラバラでも、つながろうという取り組みだった。宮城県南三陸町の地域特産品を活用する研究では、学生にあらかじめ食材を送っておいて、それぞれが料理とレシピをオンラインで紹介した。

 情報通信技術(ICT)には、新たなコミュニティーを生み出す機能が乏しい。PTAなど既存のコミュニティーを基盤として、関係性を再構築するツールとして活用してはどうか。

 離れていても、画面越しでも、感覚は共有できる。いろいろな人が集い、関わりたいという願いを集約し、つながりを蓄積する場を実現できる可能性がある。コロナ禍は、実はチャンスと捉えられるのではないか。

大義なきDXに警鐘 小野木康雄・文化時報社社長兼主筆

 オンライン化は会議や寺務に適しており、坐禅会や写経などの行事にも導入は可能だが、葬儀や法要は場所や時間の共有ができず、デメリットが大きい。オンライン法要を行っていても「普及させたいという思いは一切ない」と考えている寺院もある。

 DXの安易な導入は、危険だ。「仏教が先陣を切ってDXを推進すべきだ」との意見もあるが、新聞業界はポータルサイトで記事が無料公開されることを許したことで、情報を無料で入手できるという文化を作ってしまった。宗教界には、同じ過ちを繰り返してほしくない。

 経済産業省のDX推進ガイドラインには「競争上の優位性を確立する」との文言がある。宗教者が競争原理にくみする技術を導入して、本当にいいのか。仏教的には大丈夫なのか。大義と展望のないDXには警鐘を鳴らしたい。

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