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コロナを越えて⑫僧侶の兼業 選んだのは「そば店」

真宗佛光寺派光明寺 天盛昌明氏、光信氏

※文化時報2021年2月22日号の記事を再構成しました。

 住職と若院が琵琶湖の北端で営むそば店「十割蕎麦 坊主Bar 一休」(滋賀県長浜市)。新たな兼業の形として、真宗佛光寺派光明寺の天盛昌明氏(71)、光信氏(36)親子が2016年5月に開業した。ログハウスの店舗で昼はそば店、夜は「坊主バー」を開き、県外からも多くの人を集めてきた。新型コロナウイルスの影響で夜間営業は休止中だが、住職らが作る「法語印」は配布。カウンター越しの気軽な世間話で、教えの「肝」を伝え続ける。(編集委員 泉英明)

天盛昌明(あまもり・しょうみょう) 1949(昭和24)年5月、滋賀県長浜市生まれ。立命館大学理工学部卒。京都市内でコンピューター技師を経て、自坊に帰ったのを機に北びわこ農業協同組合(JA)に入所。退職後の2016年に一休をオープン。
天盛光信(あまもり・こうしん) 1984(昭和59)年2月、長浜市生まれ。高校卒業後に長浜浪漫ビールで副料理長として勤務後、京都栄養医療専門学校栄養士科に入学。高齢者向け給食の手伝いなどを経て、一休をオープンした。

地域の要請で十割そば

《開業は地域のNPOで活動する人たちの「活性化のため、地元に飲食店がほしい」という声に応えた。JAを退職した昌明氏が接客し、調理師免許を持つ光信氏が厨房でそばを打つ。夜は人々と気軽に話す坊主バーになる》

――開店の経緯を教えてください。

 光信氏「調理師として約10年勤務した後、地元に帰った。地域活性化を目指すNPO法人の理事らから『飲食店を開業するなら土地を安く提供したい』という申し出を受けた。当時はつなぎを使わずそば粉だけで打つ十割そば専門店が長浜市内になかったので、オープンさせることにした。店舗のログハウスは、親族ら5人で手作りした」

 昌明氏「開業前に行政や商工会議所などが行う創業塾に参加し、討論会で店名をどうするか検討した。その中で坊主バーのアイデアがあり、ショットバーではない飲み屋をやろうと考えた。江戸前のそば店には『そば前』という文化がある。そばを打ってゆでる間に、ちょっとした料理と地酒をたしなむ。そこを意識し、お酒を飲みながらゆっくり話してもらう店にした」

調理師と僧侶どう両立

《開業の理由の一つに光信氏は「休みが取りやすい」という点を挙げる。光明寺がある雨森(あめのもり)地区は、120世帯の村に真宗大谷派が3カ寺、真宗佛光寺派が2カ寺、浄土真宗本願寺派が1カ寺、真言宗が1カ寺あり、光明寺の門徒は17軒。護持のためにも兼職は必須だ。法務は主に住職の昌明氏がこなすが、光信さんが手伝うケースも少なくない》

――住職と若院がそろって店舗を経営するのは珍しいですね。

 光信氏「調理師という職業は、お寺と兼職するには休みが取りにくい。ならば自分で開業してしまおうという気持ちだった。お客さんも理解してくれていると感じる」

 昌明氏「JA職員時代のパイプもあって、地元の農家が育てたソバの実で十割そばをやろうと考えた。そば粉は地元産が一番いい。農家さんに改善すべき点を伝えるうちに、混入物が減るなど、品質が向上した。粉屋さんを通して仕入れると、保管している最中に実の水分が飛んでしまうので、JAから仕入れている。アンテナショップの役割も果たしていると思う」

 光信氏「ソバは石臼でひいた瞬間から風味が落ちる。持っても2~3日。新鮮でなければ十割そばは打てない。毎年、10軒以上の農家さんからソバの実のサンプルを頂いて、良い物を選んでいる。地元のソバに切り替えて3年ほどだが、農家さんのおかげで、地の利を生かして新鮮な商品を提供できている」

経済面写真1

坊主バーで教え説く

《現在はコロナ禍で休止中だが、夜間の坊主バーは佛光寺派の布教使でもある昌明氏が接客し、カウンター越しに気さくに会話を楽しむ。店内には地元で書画を描く小久保みのり氏の六地蔵をモチーフにした絵が飾られ、小久保氏の絵が入った法語印も配布。仏教のエッセンスを伝え続ける》

――夜間には住職がお客さんと語らうそうですね。

 光信氏「開店当初から、お酒を飲みながら僧侶と話す機会を設けている。世間話はもちろん、仏事に興味を持って聞いてくるお客さんもいる」

 昌明氏「法語印は小久保氏の書画と、真宗教団連合のカレンダーの法語などを組み合わせて作り、息子と私が交互に教えの一端を伝えている。ほとんどが世間話の中で教えを説いている」

――コロナ禍の影響はいかがでしょう。

 光信氏「お客さんの8割が県外からで、愛知県や岐阜県、京都府、大阪府など緊急事態宣言が発令された府県の人が多い。今は県境を越える移動が難しい状況だが、お客さんの多くは口コミで来店いただく。宣言が解除されれば、また来られると思う」

 「店内の対策は一般的なマスク着用や加湿、換気、4人テーブルの数を減らすことなどを心掛けている。1回目の緊急事態宣言が解除された後は、特に多くのお客さんが来られたので、しっかりと対策をして営業していた。今は代表者の氏名の記入なども求めている。栄養士の免許も持っているので、今後も衛生管理をしっかりしたい」

 昌明氏「平日は近隣の会社へ出張してきた人などが口コミで食べに来てくれるが、これまでの半分以下になった。行政の支援などで何とかなっているが、この状態があと半年続くと困る」

 「ただ、どちらかというと、お寺の経営の方が難しい。法事に呼ぶ人が減って、何もかも縮小している。お寺は国や自治体から何の保証もなく、葬儀がなければ難しい。あとはご門徒さんが支え続けてくれるかどうかだろう」

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