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コロナを越えて⑤利益を上げればいいのか

浄土宗淨閑寺住職・クライテリアトランスレイツ代表 中野隆宏氏

 ※文化時報2020年8月1日号の掲載記事です。

 「経営者ならば、正義を持たなけれならない」。浄土宗淨閑寺(千葉県市川市)住職で、IT関係のコンサルティングを手掛ける有限会社クライテリアトランスレイツの代表取締役、中野隆宏氏は、新型コロナウイルスの影響で変化する社会に対し、「物事の本当の意義を、もう一度考え直すことが大切」と提言する。寺院も企業も本質的な部分を見失うと社会からの理解を得られないと強調。「利益を上げれば良いというものではない。事業を通じて社会貢献を行うという意識が必要」と話す。(大橋学修)

 中野隆宏(なかの・りゅうこう) 1963年7月、東京都台東区生まれ。大正大学仏教学部を卒業後、東京会計専門学校を経て税理士事務所に就職。業務で蓄積したITの知識を生かして2000年1月、有限会社クライテリアトランスレイツを設立した。「クライテリア」は判断基準を意味する言葉で、「トランスレイツ」は翻訳(トランスレイション)から着想を得た造語。システムとユーザーの架け橋になろうとする思いを込めた。浄土宗淨閑寺の住職として、人々と教えの橋渡しも担う。趣味はドライブ。

老舗は誰もが納得する

 《有限会社クライテリアトランスレイツでは、企業の社内システムの構築・改善を行い、業務効率化やセキュリティー強化に当たる。中野氏自身は、浄土宗宗務庁のシステム開発を監修した》

――コロナ禍で経済社会構造が変化し、オンライン化が進んでいます。その功罪をどう捉えますか。

 「直接会わなくても業務を進められるので、便利です。ただ、現状はコロナ禍によってオンライン化を余儀なくされた側面がある。いろいろなことがやっつけ仕事になり、欠落している部分があると感じます」

 「例えば仏教界では、法要をインターネットで行うようになりました。これはコロナ禍以前からあった技術です。ネットを通じて納骨堂にお参りできるシステムが導入された事例もありますが、画面越しでは気持ちを込められないという話を聞きます。コロナ禍の対応だからこそのオンラインであり、本来はお寺に参拝することが気持ちを表す行為であることを、忘れてはなりません」

――オンラインが万能ではないというわけですね。

 「もちろん、病院や福祉施設に入っておられる方にとっては、オンライン法要なら参加できるという利点があります。手抜きなのか利便性の向上なのかを考える必要があるでしょう。そして、コロナ禍には地に足を着けて対応すべきです。心が落ち着かないものではいけません」

 「老舗とは何かという話を聞いたことがあります。それは、最先端からの距離感なのだそうです。追い掛けるでもなく、飛び出すわけでもない。旧態依然が良いとは言えませんが、誰もが納得する形が老舗であり、寺院もそういうものだと感じます」

税理士事務所からIT起業家に

――コロナ禍で、寺院のあるべき姿をどのように考えますか。

 「今は不安を感じている人が多いと思います。多すぎる情報が前提条件のないまま伝えられ、判断のしようがない。その中で、寺院は道しるべであるべきです。灯台のように『こっちを向いていれば間違いがないよ』と示すべきです」

2020-08-01 経済面・中野隆宏氏インタビュー02

 「念仏をしているだけでは、檀信徒と何ら変わりません。寺院は、どのような社会情勢でも檀信徒が信仰を維持できるよう努力すべきです。状況が変わっても、阿弥陀さまが助けることには変わりがないと伝える場として、寺院は存在すべきです」

 《中野氏は、大正大学仏教学部に在学中、僧籍を取得。卒業後に専門学校で資格を取り、税理士事務所に就職した。キャリアアップを重ねながら、三つの税理士事務所で働いた》

――IT企業を立ち上げたきっかけは何だったのですか。

 「私が税理士事務所に勤めていた頃は、パソコンが企業に導入されようかという時代でした。勤務先も会計処理を行うためのパソコンを導入するよう顧客に推奨していました。そうした中で、トラブルへの対応やパソコンの活用術を教えることが求められ、IT技術を学ぶようになりました。三つ目の職場では所長代理として、ネットワーク構築を主導し、キャリアを積みました」
 
 「父の体調不良に伴い、退職したのですが、事務所からは『アルバイトでもいいのでシステム管理を続けてほしい』と要請され、付き合いのある他の税理士事務所にもそう求められました。IT業界は、ソフトウェアの権利関係に厳しく、代理店として顧客に対応する必要がありました。そこで会社を設立することにしたのです」

普段から自分を戒めよ

――社内システムで困っている顧客には、どんな共通点がありますか。

 「現状のままでいいと思っていても、非効率な運用が行われていることはよくあります。根本から変えなければならないため、説得に時間のかかるケースもあります。特に、業務の運用方法を変えずに、システムだけをさっさと変えてほしいと考える人は多い。ただ、パソコンを改善しても作業が早くなるだけなので、非効率であることには変わりありません。本質的に何が大切なのかを前提に考えなければなりません」

 「急がば回れと言いますが、何事においても、普段から手を掛けておくとスムーズです。リモート勤務を試みても、業務の整理ができていないために、結局は会社に来なければ業務ができないケースがあります。いろいろなことを想定し、準備しておかなければなりません」

――まさにコロナ禍の備えと似ていますね。今の社会をどうご覧になりますか。

 「今はコロナ禍への対応に慌ただしいですが、今やっていることをコロナ後に整理整頓して行おうとすれば、相当なエネルギーが必要でしょう。普段から自分自身を戒める心が大切です」

 「お寺も企業も、周りとうまく共存していくことが大切です。ITベンチャーには、そういった点で弱さを感じます。間接的であっても、社会に貢献する意識を持たなければなりません。できないことを無理にする必要はありませんが、社会の一員として、できることを考えなければならないと思います」

2020-08-01 経済面・中野隆宏氏インタビュー01

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