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今こそお寺で終活を

※文化時報2022年3月29日号の掲載記事です。写真は2019年の終活カフェ。

 浄土宗龍興院(東京都墨田区)の大島慎也副住職(41)は、歯科医を兼ねる僧侶として、地域住民から頼りにされている。訪問診療の際に、さまざまな悩みや相談事を傾聴。自坊では、心のケアを柱にした「終活カフェ」を開いてきた。新型コロナウイルスの影響で現在は思うように活動できないが、新たなアイデアを盛り込んで日々奮闘している。(山根陽一)

 龍興院があるのは、東京スカイツリーのほぼ真下。下町風情あふれる地域だ。高齢者が多く暮らし、終活に関わる不安や悩みを抱えている。

 終活を掲げて活動する企業や団体はある。が、多くは財産相続や葬式・お墓に関する費用といった金銭を巡る相談が中心だ。「心」まで面倒は見てくれない。

 大島副住職は、ビジネスに絡まず、死生観にきちんと向き合い、穏やかな心持ちになれる終活相談の場づくりを心掛ける。目指すは、地域包括ケアシステム=用語解説=に掛けた「地域包括ケア寺院」だ。

 自身は臨床宗教師=用語解説=スピリチュアルケア師=用語解説=の資格を取り、介護施設で傾聴ボランティアに励んできた。中でも心のケアが必要とされるのは、歯科医として訪問診療を行うときだという。

 「飼っている犬が死んだらどうすればいい?」「葬式はどこに頼めばいい?」。診療時は白衣姿だが、髪型やたたずまいで僧侶であることに患者が気付き、悩みを打ち明けてくるそうだ。入れ歯の治療をする時間よりも、話を聴く時間の方が長い。

 そうした経験を生かし、2019年には自坊で「終活カフェ」を始めた。この年は6回開催できたが、コロナ禍に見舞われた20年はわずか1回。大勢が集う催しは、継続が難しくなっている。

ラオスで真価体感

 父の大島篤也住職も歯科医、祖父の前住職は高校教員の経験があり、3代続けて二足の草鞋(わらじ)を履いた。

大島副住職自身は10代の頃、歯科医も僧侶も目指していなかった。進学先に選んだのは、学習院大学法学部。だが就職活動の時期になって、一念発起して歯科医を志望し、日本歯科大学歯学部に再入学を果たした。

 そんな折に父親が病気で倒れて急遽、お寺に戻ることに。中学の時に得度こそしていたものの、仏教を専門的・体系的に学び直す必要があると考え、2014年に大正大学大学院で修士号を取得した。

 最後の最後に仏門を選び、僧侶として生きる決意をしたきっかけが、その2年前に訪れたラオスだった。東日本大震災の時に勤務医の仕事を離れられず、被災地に入れなかったことを悔やみ、「困っている誰かの役に立ちたい」と、12年に歯科ボランティアとして同国に入った。

 ラオスでは、仏教が生活に根付いていた。貧しくともお布施をする習慣があり、心に潤いがあった。歯ブラシを1本渡すだけで心から感謝された。「敬虔な仏教徒の国の素晴らしさを体感した。僧侶としての社会貢献こそ、自分が本当にやりたかったことだと分かった」

1家族限定の相談会

 浄土宗龍興院の大島慎也副住職は、今は僧侶としての活動が中心で、歯科医の訪問診療は週1~2回。月に1度の介護施設での傾聴ボランティアを含め、それぞれの活動で得た知見を相互に生かしたいと考えている。

 コロナ禍で高齢者たちからは「怖くて外に出られない」「運動不足で体がますます衰える」との声を聞く。ならば、お寺に来る人数を極力減らして密を防ぎ、十分に感染予防をすればいいのではないか―。

 そこで着想したのが、1家族のみの終活相談。時間をずらせば、1日に3家族まで対応できる。大勢のときよりも、じっくり相談してもらえる。

 お寺で終活をする意味については、「本堂で阿弥陀如来を前にすると、心持ちは変わる。自宅とは異なる非日常の空間だからこそ、死後や死生観について家族同士で語れる」と話す。死後は誰もが極楽浄土に行くという浄土宗の教えも、本人や家族が心穏やかに話を聴けることにつながるという。

 「人は人とつながっていたいと思うものだ。特に高齢者であれば、何かを話して残したい、という気持ちは強い」と、大島副住職。コロナ禍の終息する日を願って、今できることに取り組んでいる。

大島慎也(おおしま・しんや)1980(昭和55)年7月、龍興院で長男として生まれる。学習院大学法学部、日本歯科大学歯学部卒。大正大学大学院仏教学科修了。4月からは大正大学大学院の非常勤講師も務める。

【用語解説】地域包括ケアシステム
 誰もが住み慣れた地域で自分らしく最期まで暮らせる社会を目指し、厚生労働省が提唱している仕組み。医療機関と介護施設、自治会などが連携し、予防や生活支援を含めて一体的に高齢者を支える。団塊の世代が75歳以上となる2025年をめどに実現を図っている。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
 被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年3月現在で203人。

【用語解説】スピリチュアルケア師
 日本スピリチュアルケア学会が認定する心のケアに関する資格。社会のあらゆる場面でケアを実践できるよう、医療、福祉、教育などの分野で活動する。2012年に制度が設けられ、上智大学や高野山大学など8団体で認定教育プログラムが行われている。

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