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はじめてのニンジン

少し前の事は覚えていないけれど、僕は去年の年末ごろにこの家族の一員になったらしい。僕とお母さんとお父さんの三人で暮らしている。

お父さんはいつも家にいる。ダッコヒモというベルトに包まれて外出についていく事もある。家にいる時、お父さんを呼んだら絵本やボールを持ってくるので、一緒に遊んであげている。でも食べ物を作っている時は呼んでも返事だけで、なかなか来てくれない。バウンサーという椅子に座らされている時は、呼んでも来ないという事が分かってきた。

お母さんは出かける事が多い。オシゴトに行っているようだ。たまにヤキンの時があって、その時はお父さんとお利口に過ごすようにと念を押してくる。オシゴトから帰ってきたら抱っこしてくれる。足りないと感じる事が増えてきたけど、おっぱいを飲ませてくれる。抱っこはお父さんよりお母さんの方が上手だ。

僕は日に日にこの世界の事がわかってきている。
今日は新しいリニュウショクに挑戦した。

お母さんとお父さんは、いつも僕の食事が終わってから食事をしている。体が大きいから食べる種類も量も多い。先週やっと初めて食べさせてもらったご飯、と言っても僕のはオカユと言うトロトロにしたご飯だけど、ご飯をたくさん食べるし、その他に赤い食べもの、緑の食べもの、茶色い食べ物、その他いろんな食べ物をおいしそうに食べている。ミルクとは違う色の飲み物も飲んでいる。
僕は気になって仕方なかった。ミルクとオカユしか食べさせてもらえなくて、少しも分けてくれない。だから僕にも食べさせてとずっと主張していたら、ついに今日オレンジ色の食べ物を食べさせてもらえた。ニンジンというらしい。


初めてのニンジンはなかなか衝撃的だった。びっくりして反射的に吐き出してしまった。
知らない味がした。
でも、冷静になって味を感じてみたら、意外といけるやん。オカユなんかより全然いいやん。お母さんたちはいつもこんなおいしいものを食べているのか。ついに僕もあの楽しそうな食事を一緒にさせてもらえるんだ、と思ったら、たったの数口でおしまいだって。
いつもお父さんは言う。
「少しずつできるようになるから」
だから今日はニンジンだけ、それもほんのちょっとだけなんだと。
しばらく気分が収まらなかった。

仕方ない。
僕はまだ自分ではできない事ばかりだけど、いつか自分で歩けるようにと今は寝返りの練習を手伝ってくれているし、リニュウショクも次はジャガイモをもらえるみたいだ。いつも「なんでもひとつずつできるようになっていこう」って言われてる。
ニンジンをもっと食べたいと思ったけども、オカユもそうだけどミルクと違ってトロトロしている。正直な事を言うと、あれをどうやって飲み込むのかまだイマイチわかっていない。口の周りはベタベタになるし、たくさんこぼしてしまう。それも「少しずつできるようになっていく」んだそうだ。
お母さんやお父さんも、コソダテは初めてだから、僕のためにそれなりに勉強をしているらしい。僕のお願いをちゃんと聞いてくれない事も多いけど、きっとお母さんやお父さんも少しずつできるようになっていくんだろう。

#創作大賞2023

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