見出し画像

タマムシハンドブック(タマハン)ができるまで

Author:福富宏和(石川県ふれあい昆虫館)

1.タマムシハンドブックのはじまり

2018年の昆虫系イベント「昆虫大学」での一コマ。『ネイチャーガイド日本のトンボ』の著者であり、昆虫写真家である尾園暁さんから「タマムシハンドブックをつくりませんか?」と声をかけていただきました。タマムシハンドブックがあればいいなぁと思っていましたので、そのままお話に乗っかる形でスタートしました。
日本産のタマムシは、220種。北海道から沖縄、トカラ列島、小笠原と、それぞれに特色ある種がいるため、これまでいろいろ犠牲にしながら全国を回ってきた成果を残す良い機会だと感じました。ですが、その分、情報は多くなり、載せたい個体数も多くなってしまいます。そこで、私一人では到底できないと感じ、タマムシ仲間である山田さんと瑤寺さんに声をかけて、協力していただけることになりました。そして、出版社さんからは志水謙祐さんが編集担当として加わっていただき、今回のハンドブックのメンバーが決まりました!

2.内容を決めるまで

では、どのように掲載種を決めたのか? まずは、できるだけ皆さんが見かける種を中心に選びました。そして、日本産タマムシの全体がある程度わかるように、全部の属(特徴の似た種をまとめた分類階級)を載せたうえで、北海道から沖縄・小笠原までの種を載せようと、執筆担当の3人で検討を重ねました。コロナ禍のため皆で直接集まることはできませんでしたが、オンラインで検討し、日付が変わるまで白熱した日もありました。最終的に131種を掲載しました。ほかにも、採集方法、道具、飼育法、世界のタマムシなど、この機会に皆さんへお伝えしたいことも決めていきました。

タマムシハンドブックの台割案その1。
タマムシハンドブックの台割案その2。

3.タマムシの準備

そして、標本の準備です。できるだけ「かっこいい標本」を載せようと、展脚をやり直して、見やすい標本にして掲載しました。ナガタマムシやチビタマムシの小型種では、腹部や交尾器など見てほしい点の準備もありました。この標本準備がなかなか大変でした。細かい部分までよく見る標本作成は、いろいろな発見につながり、私自身改めて勉強にもなり、区別点などで記述することもできました。

エサキクロタマムシの撮影用標本。

4.読みやすさの工夫とこだわり

ハンドブックは、できるだけ多くの方に親しみやすい本になってほしいと思っています。そのためには、わかりやすい写真がとても大切になります。今回の著者陣には、尾園さんがいますので、とても心強いものがありました。
ハンドブックのコラムでも紹介していますが、「ピカピカの虫は撮影がすごく難しい」のです。光りすぎると斑紋が見えず、暗すぎると本来のかっこよさが表現できません。その大問題もさすがは尾園さん、見事に解決し、派手すぎでなく、綺麗な写真で掲載することができました。
またコラムでは、できるだけ著者と読者の距離を縮めたいと思い、漫画家の仲川麻子さんにイラストをお願いしました。各自の性格を見事に現したイラストになり、親しみやすいコーナーになったと思います。

漫画家の仲川麻子による執筆者の似顔絵。

文章・写真・イラストがそろっても、ハンドブックはできません。いかに読みやすいようにデザインするかも重要です。次の図をみてください。ナガタマムシの見分け方のページですが、私のイメージ原案と実際に完成したページとの比較です。

イメージ原案。
完成したページ。

一目瞭然、私のイメージ以上のページとなりました! ナガタマムシ同定の際に観察する部位は、わかりにくかったり、複数あったりと複雑なのですが、紙面に収まっています。
さらに、「本の顔」である表紙も、興味がある方の目を引くものになりました。いくつかのでデザインから、インパクトのあるものを選び、さらにキラキラのホログラム入りになりました。色校正の際、尾園さんのこだわりもあり、タマムシの向きと同じ縦向きに輝く形となりました。

さらに、いちばん大きなタマムシの写りに納得がいかない尾園さんが再撮影を敢行し、印刷直前で差し替えて現在の表紙が完成しました。

変更前の表紙。 
写真差し替え後の表紙。

5.本が完成するまで

今回のハンドブックが完成するまで、とても多くの方の協力がありました。本書の最終項にお名前を載せさせていただいた方をはじめ、私たちがタマムシを追いかけるにあたり、アドバイスをいただいた方、送り出してくれた家族、さまざまな形で応援してくださった先輩や同僚など、どなたが欠けても完成には至らなかったと思います。
本来なら、本の最後に皆さんへの感謝の言葉を書くべきであるのですが、今回は、ぎりぎりまで情報を詰め込んでしまいました。
あとがきに代えて、皆さんに著者一同からお礼申し上げます!

6.タマムシハンドブックとその後

ハンドブックは、完成して終わりではありません。これから多くの方に使っていただいて、初めて真価が問われます。ここから先が、「自己満足」で終わるか、「役立つ本」になるかの分かれ道です。
多くの方に使っていただき、読者の方々の新しい発見や、日々の楽しみ、タマムシの面白さにどっぷりと浸かっていただけたら、それ以上の嬉しさはありません。こだわりが多く詰まったタマムシハンドブックです。皆さんに活用していただき、新しい情報がどんどん集まり、次の時代の基礎になることを願っています。
 
 

Author Profile
福富宏和(ふくとみ・ひろかず)
石川県ふれあい昆虫館 学芸員。タマムシの生態・分類、海浜性ハンミョウ類の調査・研究を行う。来館者へ昆虫の面白さを伝えることに取り組んでいる。昆虫や生き物系のイベントに積極的に参加している。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?