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自然観察の楽しさが倍増する二刀流図鑑

Author:髙野丈(編集部)
野外で昆虫を探すとき、何を手がかりにしていますか。多くの虫は樹木や草の葉を食べますから、葉っぱを見ていけば、いろいろ見つかるでしょう。でも、お目当ての虫を見つけたいと思うなら、あてもなくやみくもに探しても、なかなか出会えないのではないでしょうか。お目当ての虫を狙って見つける……その手がかりとなるのが食草です。

決め手は食草

アゲハチョウのなかまならミカンやサンショウが、オオムラサキやゴマダラチョウならエノキが、幼虫が食べる植物=食草です。どんなに自然豊かな環境であっても、エノキ以外の植物の葉っぱを探していては、オオムラサキの幼虫は見つかりません。多くの昆虫は食草が決まっていますから、お目当ての虫と出会うためには、食草を探せばよいというわけです。ただ、とかく昆虫好きは植物をあまり見分けられないし、植物愛好家は昆虫をよく知らないもの。それならと、昆虫写真家の森上信夫さんと植物図鑑作家の林将之さんがタッグを結成。いろいろな虫と食草が掲載され、昆虫と植物の双方を調べられる図鑑『昆虫の食草・食樹ハンドブック』が生まれました。

カラムシの葉上にいたラミーカミキリ

情報量大幅アップの新版が誕生

おかげさまで『昆虫の食草・食樹ハンドブック』は好評をいただき、多くの読者にご愛読いただいてきました。ただ、もっと多くの虫や食草を知りたい!という読者の要望は強く、著者の森上さんと林さん自身もそう望みながら、知見と写真を蓄積してきました。そして今年、初版の刊行からじつに17年を経て、満を持して刊行したのが『昆虫と食草ハンドブック』です。初版の掲載種数は昆虫82種、植物68種でしたが、新版では昆虫223種、植物155種と大幅に情報量を増やし、総ページ数も80ページだったものがほぼ倍の152ページとなりました。野外の観察で使いやすいよう、ビニールカバーもついています。
*今回、草も木も一般的用語である「食草」に統一しました。書名から「食樹」をとりましたが、従来通り樹木を多数掲載しています。

フィールドで使いやすいよう、ビニールカバー付きの仕様です

4つの使い方で楽しめる

1.虫と食草について詳しく知ることができる
本文誌面の基本構成は初版と同じで、昆虫をチョウ、ガ、甲虫、カメムシの順に種ごとに掲載し、虫と同じページで食草を紹介しています。昆虫は時期によって卵、幼虫、さなぎ、成虫と姿を変えますが、できる限り多くの成長段階を掲載。解説文では、その虫の特徴はもちろん、読みもののように楽しめるエピソードも紹介しています。食草については、鮮明で見分けやすいスキャン画像を掲載し、見分けるポイントを示しています。

オオムラサキ・ゴマダラチョウ×エノキ・エゾエノキ
ムラサキツバメ×マテバシイとムラサキシジミ×シラカシ・アラカシ

2.野外で見かけた虫や植物を「絵合わせ」できる
巻頭には本書に掲載している主な昆虫と食草の一覧ページがあります。昆虫はチョウ、ガ、甲虫、カメムシ、そのほかの虫の順に掲載し、分類ごとにまとめています。野外で見つけた虫を「絵合わせ」で調べるのに役立ちますし、虫が一堂に会した誌面を眺めるだけでも楽しくなります。なお、各ページ内に掲載している虫の大きさの大小が逆転しないよう、掲載サイズを調整しています。

甲虫の一覧ページ

3.ある植物に集まる虫や、樹液に集まる虫がわかる
虫がよく集まる代表的な植物に注目し、そこに集まる虫を並べた特集ページを設けました。食草だけではなく、樹液が出る木とそこに集まる虫も紹介しています。沖縄のチョウと食草を特集したページもあります。

サクラに集まる虫を紹介した特集ページ
樹液に集まる虫も情報を大幅に増やして紹介

4.名前がわかっている虫や植物について調べやすい
さくいんは昆虫と植物に分けて組んでおり、和名のほか科名や別名でも探すことができます。知りたい虫や植物の名前を探し、本文をご覧ください。

ムラサキシキブの葉表で見つけた、イチモンジカメノコハムシの幼虫。ユニークな姿だ

自然のしくみが見えてくる

この図鑑を参考にして食草から昆虫を探すことで、今までよりも虫がよく見つかるようになり、憧れだったお目当ての虫に出会えることもあるでしょう。そうして観察を重ねていくうちに、今までよりも昆虫と植物の関係が見えてくるようになるはずです。いろいろな虫がこれからも世代を繰り返していくためには、食草の多様性も守られなければなりません。今まで虫にしか興味がなかった人が、食草を愛おしく思う。植物しか見ていなかった人が、昆虫探しを楽しむ。そんな視点と行動の変容は、生きもの同士のつながり合いという、自然のしくみの一部を垣間見るような興味深い経験ではないでしょうか。このように、昆虫と植物のつながりに着目し、双方を調べて観察すれば、自然と生きものをより深く楽しむことができるのです。

ブンイチサイエンストークを開催します

本書の出版を記念して、6月14日(金)に著者の森上信夫さん、林将之さんが講演します。当日は昆虫と食草についての濃い話が展開されますので、どうぞお楽しみに。
講師:森上信夫(昆虫写真家)× 林将之(植物図鑑作家)
司会:髙野丈(文一総合出版)
参加費:無料
詳細・お申込みは文一総合出版のPeatix(下記)よりどうぞ。


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