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第2回 いろいろなタイプの足

発売以来、高い評価を得てきた『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』(熊谷さとし:著/安田守:写真)が、増補改訂版となって1月下旬に刊行されます。ムササビやニホンカワウソ、ツシマヤマネコの情報が追加され(8ページ増)、貴重な生態写真も複数種で刷新しました。
「哺乳類のフィールドサイン?」という方の興味・関心・疑問に応えるため、ブンイチnoteでは本書の巻頭部分を一部抜粋し、3回にわたって公開します。第2回では、「いろいろな足跡」を紹介します。

足跡

足跡探索は、田んぼのあぜ、泥場、細かい砂地、浅い雪の上などを見て回るのがコツだ。ただし、あまりにも深い泥場や雪の上だと、指跡が残りにくかったり、イレギュラーな足跡が刻印されたりで、特徴がつかみにくいから注意しよう。

足跡は「足裏スタンプ」なので、
実際の足裏とは左右が逆さになることに注意しよう

プリントと歩行パターン

足跡には2通りの呼び方がある。前後左右にかかわらず、足跡単体を指す場合は「プリント」と呼び、つながった一連の、または1ストローク(一歩分)の足跡を指す場合は「歩行パターン」と呼ぶ。
プリントでは特定できなくても、歩行パターンの特徴によって種が特定できる動物もいる。ちなみに歩行パターンは、トラックと呼ばれることもある。

歩き方のタイプ

動物の歩き方には大きく分けて、「指行性しこうせい」「蹠行性しょこうせい」「蹄行性ていこうせい」の3つのタイプがある。それも踏まえて足跡を読み取ることが大切だ。

  • 指行性しこうせい(4本の指跡)

人間がつま先立ちで歩くように、肉球のある指先で歩くタヌキやヤマネコなど、イヌ科動物やネコ科動物の歩き方。

人差し指から小指の指先で歩くタイプ
  • 蹠行性しょこうせい(5本の指跡)

人間と同じように、かかとまでべったりつけて歩く、クマ、イタチ、ハクビシンなど多くの動物の歩き方。歩行時はかかとまで、走行時は指先だけを地面につけるものを「半蹠行性はんしょこうせい」と分ける文献もある。

かかとまでつけて歩くタイプ
  • 蹄行性ていこうせい(ヒヅメの跡)

イノシシ、シカ、カモシカの歩き方。指先がつくので、指行性しこうせいのひとつだが、ヒヅメに特徴がある。日本の野生動物は2本か4本のヒヅメの跡を残すが、ウマは1本だ。ウシやヒツジなどの偶蹄類ぐうているいやウマなどの奇蹄類きているいが、このグループになる。

中指と薬指のツメで歩くタイプ
  • 跳躍性ちょうやくせい・小さい・目立たない

蹠行性しょこうせいのひとつだが、特徴的な足跡を残すノウサギやニホンリスなどの跳躍性ちょうやくせいのほか、モグラやムササビコウモリ類など、足跡が小さかったり、見つけにくかったりするものが含まれる。

動物の指と肉球の見方

日本にすむ、足跡を地面に刻印する野生の哺乳類の指の数は、長さや太さに違いはあるが、2本、4本、5本のどれかだ。それぞれの指は、人間でいう親指が第1指で、順番に第2〜4指、小指を第5指と呼ぶ。動物によって第1指がなかったりもする。シカなど蹄行性ていこうせいの動物の足跡をつける部分は、厳密にいうと指ではなく爪のかたまり(ヒヅメ)だ。
また、足裏には、肉球と呼ばれるやわらかいパッドがある。これは、そっと獲物に近づく際の消音装置になり、また、クッションの役割などをする。私たちが履く、やわらかい靴底だと思ってもらえばいい。ひと口に肉球と言っても、位置や形、利用方法は動物によってさまざまだ。

蹄行性の右前足。第1指はない
人間の右手と、5本指動物の右前足

足跡の読み方の例

足跡を見つけたら、「何の動物か?」がわかればいい。だから、「足跡が前後左右、どの足なのかまでわかる必要があるのだろうか?」と思うかもしれない。たとえば、下の写真を見てほしい。

「4本の指跡……タヌキかな?」と思うだろう。しかし、前後左右の見方を知っていると、右から3つ目の指の向きが中央に寄っていないことに気づくはずだ。さらに、右から4つ目と3つ目の指の間も広すぎる。気を
つけて見ると、地面についた左すみのくぼみが指の跡だったことに気づくだろう(矢印が真上に向くように顔を傾けてみよう)。
そう、これは5本指のテンの右前足の跡だったのだ。そう思ってみると、もうどう見ても5本指にしか見えなくなる。地面に刻印された足跡は、「だまし絵」と同じなのだ。
フィールドサイン観察にハマると、こうした推理が俄然、楽しくなってくるはずだ。

第3回では、「足跡」以外のフィールドサイン(フンや食痕など)を紹介します。どうぞ、お楽しみに!

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