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【新刊記事公開】『生きもの毛事典』①

 自然科学出版のスペシャリスト「ブンイチ」が編集・制作した『生きもの毛事典』(保谷彰彦:文/川崎悟司:イラスト)は、ほかの雑学事典とはひと味もふた味も違います。
 「アブを撃退!しましまの毛」と「空気を読む毛!?」を全文公開。まずは試しに読んでみてください!

1 アブを撃退!しましまの毛

 シマウマの縞模様にどのような役割があるのか、議論は150年も続いています。これまでに天敵から身を守るカムフラージュ、なかまへのサイン、体温の調節などに役立つという仮説が提唱され、いまも研究が進められています。
 近年注目されているのが、感染症を引き起こす吸血性アブ類に対する防御の役割です。シマウマとウマの周囲を飛びまわる吸血性アブ類の動きを詳しく調べると、アブ類はウマに近づく際には減速して着地する一方、シマウマには減速せずに通り過ぎたり、その体にぶつかったりすることがわかったのです。シマウマに着地するアブ類の数は、ウマの4分の1ほどでした。また、ウマに縞模様の布を着せると、アブは着地しにくくなりました。縞模様には、アブ類によってもたらされる死にいたる感染症を防ぐ働きがあるようです。

シマウマの体は白色と黒色の毛でおおわれる。

ブラックバックの白黒模様

 白黒模様にもいろいろあります。たとえば、ブラックバックの体は上が黒色、下が白色です。このように光が直接当たる側の表面が暗く、その反対側の表面が明るくなっていることを、カウンターシェーディングといい、多くの動物に見られます。その働きの1つとして、自分の体にできる影が打ち消されることで、天敵などに発見されにくくなるということが考えられています。

 サバンナシマウマ。ウマ科ウマ属の哺乳類。シマウマは3種の総称で、いずれも白黒模様でアフリカに分布。群れで暮らす。ロバに近縁。

参考資料
Caro T. et al. (2019) PLOS ONE 14(2): e0210831.
Allen W.L. (2012) The American Naturalist 180(6): 762-776.
Rowland H.M.  (2009) Philosophical Transactions of the Royal Society B 364: 519–527.
Grame D. et al. (2004) Animal Behaviour 68: 445e451.


2 空気を読む毛!?

 丸めた新聞紙を打ち下ろしても、なぜかゴキブリはさっとかわします。ゴキブリが瞬時に危険を察知できるのは、気流を感じとる毛があるからです。
 その毛が生えているのは、腹部後端にある尾葉と呼ばれる1対の突起です。尾葉に生えている細い毛はかたく、空気の流れを受けるとゆれ動きます。毛がゆれて傾くと、その刺激は、毛の根もとにある特別な細胞を経て、神経系へと伝わります。このように尾葉の毛は気流を感じとる感覚毛なのです。新聞紙を勢いよく打ち下ろすと、空気が押しのけられ、生じた気流は広い範囲に及びます。この気流をゴキブリは毛で感じとるのです。
 しかも動きにすばやさがあります。たとえば、ワモンゴキブリは、1秒間に体長の50倍(1~1・5m)の距離を走ることができます。危険をすぐに察知して、猛スピードで逃げ去ります。

尾葉に生える細くかたい毛で空気の流れを感じとる。

においを嗅げば、すべてがわかる。

 ワモンゴキブリは夜行性です。暗闇の中で活動し、暗い台所で触角をゆらゆらさせます。その触角で、味やにおい、音、温度などの周囲の情報を感じとります。においを感じとる能力は特にすぐれていて、においの発生源を視覚に頼らずに特定できるほどです。においを感知するのは触角にある感覚毛で、その表面には多数の小さな孔があいていて、そこからにおい物質が入りこみます。

 ワモンゴキブリ。ゴキブリ科ゴキブリ属の昆虫。原産地はアフリカとされ、現在では世界中に広く分布。実験動物としても利用されている。

参考資料
Nishino H. et al. (2018) Current Biology 28(4): 600–608.
Booth D. et al. (2009) The Journal of Neuroscience 29(22): 7181–7190.
Full R.J. and Tu M.S. (1991) Journal of Experimental Biology 156(1): 215–231.

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