北の大地に試されて(伊勢崎おかめ)

十年以上前のことだが、北海道は札幌に住んでいたことがある。大阪で生まれ育った私には、札幌はまるで外国のように思えた。なぜか。言い出すときりがないが、その理由を4点挙げてみたい。

1.言葉が違う

当然であるが、言葉が違う。近所の人に大阪弁のまま話しかけたら「なまってますね」と笑われたことがある。確かに大阪弁は方言であるが、私からすればなまっているのはそちらの方なので、至極失礼な話である。でも、私は決して札幌に屈せず、大阪弁を貫き通した。あちらの方からすれば、さぞ頑固で偏屈な大阪人に映ったことだろう。

2.テレビ番組が違う

北海道文化になじみがなかったのが原因だろうが、北海道のテレビ番組になじめなかった。私にとっては、ちっともおもしろくないのである。「大阪のローカル番組はもっとおもしろい、おもしろいぞ…」などと考えているうちに、大阪に帰りたくなってさみしくなってしまうため、次第にテレビを見なくなってしまったが、STVの明石アナだけはおもしろかった。ありがとう明石アナ。

3.食べものが違う

特に問題だったのが、食べものの違いだった。私はうどんが大好きなのだが、札幌にはうどん屋というものがない。あったのかもしれないが、私には見つけられなかったほど、麺といえばラーメン屋ばっかりだった。スーパーでも色々不便さを感じた。関西では、パックに入った液体のうどんだしが売られており、いつでも気軽にうどんを食すことができるだが、札幌では見たことがなかった。精肉売り場も、羊肉が多くの面積を占めていた。私は羊肉が苦手なので、羊肉コーナーを通るたびに「何がジンギスカンやねん」と心の中で舌打ちしていた。

ただし、いいこともあった。六花亭の製品が気軽に買えるである。あの、北海道物産展でしか買えないバターサンドが。しかし、物産展等でたまにお目にかかるから「買ってみようかな」と思い、たまに食べるから美味しいのであって、普通に手に入るとなると、あのようなカロリー爆弾菓子は、買わないのである。それより、おにぎりせんべいが買えないのは、私にとっては懲役10年程度のダメージだった。

4.気候が違う

真夏でも大阪ほど暑くないのは過ごしやすいのであるが、冬は寒い。いや、一年の半分以上は涼しい~寒いのではないだろうか。

当時、住んでいたところの地名は「発寒(はっさむ)」といった。友人らに住所を伝えると「寒さが発する!なんちゅう寒そうなところに住んでんねん!」と笑われた。友人らからすれば笑って済む話であるが、私にとっては、今まで体験したことのない寒さと大量の雪の中での生活は、まさに死活問題であった。外出時にはものすごく厚着をするが、お店の中に入れば暖房が効きすぎていて気分が悪くなるほど暑い。それに、嵩む暖房費、早い日の暮れに、心まで暗くなってゆくようだった。冬の夜は除雪車が作業する音が響き、それが気になって眠れなくなってきた。

北海道のことが嫌いだとか、ネガキャンを張ってやろうとか、そういうつもりは一切なく、ただ単に私個人の感想を述べたまでであるし、私には合わなかっただけだ。たとえすいていても電車で優先席に座る人はめったにいない、行列に割り込む人が見たことがないほど民度の高い人々が多いし、道路は広く街並みは美しいし、ゴキブリはいないし、北海道ならではの食べ物や、ウインタースポーツが好きといった方にとっては、とても住みやすい街だろうし。

当時、「試される大地」というコピーが書かれたポスターをあちこちで見かけた。北海道も何かに試されていたのかもしれないが、私のほうが北海道に試されたわけである。で、負けた。完敗。北海道に乾杯。ルネッサ~ンス!


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