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鍋奉行がヤバい
もう相当前の話だしその学校もないから言っちゃうけどさ。宅建だか司法書士だかの論文採点やってたことがあるんだよ。うん。バイトだよ。受付のバイトだったけど、登校受付終わったら事務の手伝いもしてて。教材コピーしたりホッチキスで留めたりとかやってたらある日いきなり紙の束持ってきてこれ採点して、って。できませんって言ったら仕事なくなりそうで、まあ、まあまあ、ね。なんもわからないよ。今だってなんの論文だったか思い出せないくらいだもん。読んでもわからないし、読めないし、でも点数つけなきゃいけないからさ、縦横数えて電卓で文字数計算してたくさん書いてるのから順にいい点付けてた。あと字が見やすいかどうか、とかね。100点はバレそうでダメだと思ったからそこらは加減して。
バイトに何やらせてんだって話。最低賃金でさ。当時はようやく見つけたカタギっぽい仕事だったし、がんばって文字数数えてたんだけど。てか訴えられなくてよかったよ。こんなバカが数数えて点数付けてるとかバレたらいっぺんだよね。まあすぐ辞めたしすぐ潰れたけど。
だからさ、面接落ちるくらい別に大丈夫。なんもわからんバイトが上から順に採用してるかもなんだから気にすんなって。あ。そっちの煮えてるよ。早く食べなよ。
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ひなた剥がしてきて眠る
その鈴の音はひそやかで、水琴窟のような響きを持っていた。銀色のそれを美しいものが好きな女に贈った。喜んでくれると思っていたが、彼の女はその鈴の音が聞こえないと言う。
女は耳のそばで鈴を振る。同心円がいくつも生まれ、あたりの空気が清浄になる。女は気づいていない。首をかしげては振っている。聞こえないねえ、とさびしそうに笑う。
身じろぐたびに女のまわりを透き通る音が満たす。昼餉の終わった所在ない時間に、座布団を二つに折って枕にして、私はひとり聞いている。
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