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幽霊が私に入ってきた

「幽霊なんて存在するわけがない」

私もそう思っていました。

あの夏の日までは。



当時の私は地元を離れ、西日本のとある大学の近くで1人暮らしをしていました。

私の部屋は、玄関から入ると右手にはユニットバス、左手には2口のコンロがついたキッチン、そして突き当たりにリビングルームがあるワンルーム。そのアパートは女性専用だったので、夜もそこまで騒がしくなく、私はそれなりに楽しく暮らしていました。

大学4年生だった私は、大学の卒論に向けた実験とバイトに追われていました。私は奨学金とバイト代で生活をしていたため、お金が必要だったのです。また、2年半付き合った彼氏とちょうど別れたこともあり、より一層バイトのシフトを増やして忙しくしていました。

その日は日曜日で、レストランのランチタイムとディナータイムを両方働く日でした。しかも朝10時入りでお店の清掃から担当する一番ハードなシフト。

ランチタイムが終わってまかないのポークジンジャーを食べた後、私はまっすぐ家に向かいました。ディナータイムまでの1時間ゆっくり休みたかったからです。

原付で家に帰ると、私は部屋の隅に畳んでおいた布団に寄りかかりました。特に目的があるわけでもなくスマホでSNSをチェックしていたら、いつのまにかウトウトしていました。

えっ…身体が動かない!

金縛りです。

手に持っていたはずのスマホが、布団の隣に落ちています。起き上がってスマホに手を伸ばそうとしても、身体に力が入らないのです。

どうしよう

次の瞬間、今まで感じたことのない感覚が全身に広がりました。もしかしたらこれが悪寒とかいうやつでしょうか。とにかくものすごく気味が悪いのです。

何かの気配を感じます。玄関の方からです。

玄関の方に目をやると、ひとりの男が立っていました。

え?

男の人…?いや、普通の人間じゃないことはすぐわかりました。なんだか白いベールがかけられているみたいに全体的に色が薄いのです。

もしかして…幽霊?

まだ金縛りが解けません。指先から、足の先から、どうにか動かそうとしても何もできませんでした。

その男の幽霊がこちらに近づいてきます。音を立てずにそーっとお風呂とキッチンを抜け、私がいる部屋に入ってきました。

男の幽霊は一通り私の部屋を眺めます。首をくいっと私の方に向けました。私を数秒間見つめます。そしてそのまま音を立てずにじわりじわりと私に近づいてきました。

やめてー!

私の必死の一言も声になりません。

私の鼻に顔が当たるくらいに近づくと、次の瞬間、男の幽霊は私の中に入り込みました。顔から入って肩、胸、そして足の先の順に、その男の幽霊は確実に私の中に入ったのです。

一体何が起こったの?

気がつくと、私の中に入り込んだはずの男の幽霊が部屋から出て行くところでした。

私はその男の幽霊が玄関の方へ歩いていく姿をただ眺めていました。

まだ身体に力が入りません。

ゴトッ!

ここまで一貫して何も音を立てずにいた幽霊がはじめて音を立てました。どうやら玄関で何かにつまずいたようでした。

「プルルル…プルルル」

スマホの呼び出し音が聞こえてきて、ようやく私の金縛りは解けました。電話をかけてきたのはバイト先の店長。来月のシフトについて確認の電話でした。

「はい…。はい、大丈夫です。はい。失礼します」

電話を切ると私は、ふーっと息を吐きました。身体を起こして、今私に起こった出来事について考えてみます。

「今のは夢…なのかな?」

私は玄関の方に行ってみました。幽霊が何かにつまずいていたことを思い出したからです。

玄関の鍵もチェーンもしっかりかかっていました。下を見ると、私のサンダルや靴、スニーカーがいつもどおり並べられています。

ただ、ひとつだけ妙なことがありました。

さっきバイトのときに履いていたスニーカーが、片方だけ裏がえしになっていたのです。きちんと揃えておいたはずなのに。

まるで誰かがそのスニーカーにつまずいたかのように。

夏の暑い日。

私は、自分の身体が恐怖で震えているのを感じていました。





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