文学少女

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文学少女(理系) 綺麗な文章を書きたい https://kakuyomu.jp/users/asao22

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    短編小説をまとめています

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僕の人生を変えた本:「ハイライトは蒼く燃やして」

記事を開いた人の中に、このタイトルを見たことがある、という人はおそらくいないのではないだろうか。この小説によって、僕の人生は決められてしまったし、この先生きていく中で、この小説が僕の胸に刻んだ傷は、ずっと残り続けるだろう。その本は、一般には流通していない。もう、手に入れるすべはない。世界に、何冊あるのだろう。三桁もないと思う。僕の一番好きな小説は、そんな小説だ。 その小説とは、機乃遥著「ハイライトは蒼く燃やして」である。まず、この小説はカクヨムにある。僕がなぜこの小説を読む

    • コメディだけれどSF映画の大傑作「サマータイムマシン・ブルース」

      夏になると、僕は必ず見たくなる映画がある。それは「サマータイムマシン・ブルース」という映画だ。低予算のコメディ映画ではあるが、脚本の圧倒的な完成度とタイムマシン理論の矛盾のなさがすさまじく、SF映画の大傑作といえる。 「シュタインズゲートが好きなら、この映画が好きだと思うよ」と父におすすめされたのがこの映画だった。そして、僕はこの映画の虜になってしまった。「好きな映画は?」と聞かれると、必ずこの映画が頭に思い浮かんでくる。ばらばらだったパズルのピースが何から何までぱちぱちと

      • 美しい自伝~ナボコフ「記憶よ、語れ──自伝再訪」〜

         ナボコフ「記憶よ、語れ──自伝再訪」は、ナボコフらしい変わった自伝であると同時に、非情に美しい自伝である。この自伝は、十五章で構成されているが、それは完全な時系列順になっておらず、また、まず初めに第四章が書かれ、次に第六章、といった風に、各章は順番に書かれていない。第一章のあとに第十五章が書かれているのも、とても面白い。  この本が普通の自伝ではないことが、第一章の書き出しから読者には感じられるだろう。『揺籠は深淵の上で揺れ、常識が教えるところによれば、我々の存在は二つの永

        • ビビ

           僕は猫を撫でていた。ふわふわとやわらかく、さらさらとすべり、猫の首元を撫でる僕の指は、この上ない心地よさを感じていた。猫は気持ちよさそうに目を瞑り、もっと撫でてと言わんばかりに顎を上げ、首元を露にする。猫はごろごろと喉を震わせ、小さな鼻の穴から勢いよく息を放つ。僕は猫の毛並みに沿って、顎から首へと指を滑らせる。  僕が小学生のときに飼い始めたこの猫は、名をビビと言う。英語表記は「vivi」。僕が大学生になった今、もう十歳になる。それは、あまりにも早すぎるように思えて、腑に

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        僕の人生を変えた本:「ハイライトは蒼く燃やして」

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        • 短編小説
          3本

        記事

          短編小説:灰色

           ドアに寄りかかりながら、僕は地下鉄の電車に揺られていた。ドアのガラスには、暗いコンクリートの壁を背景に、反射した僕の顔が浮かんでいた。生気を失い、目に光はなく、なにもかも諦めてしまったかのような、生きているのか、死んでいるのか、わからない顔つきだった。窓に映った僕が、僕に問いかける。「このままでいいのか?」と。このままではいけない、という思いは、たしかにある。だが、どうすればいいのか、というのが何もわからない。目標もなく、無意味に日々は過ぎている。こういうことを考えるように

          短編小説:灰色

          短編小説:幻を追いかけて

           朧月が浮かんでいた。月は、今にも消えてしまいそうに思える煙のような雲に覆われ、薄い白のレースを身に纏っているような霞んだ姿だった。月光が雲を照らし、虹色の輪が広がっていた。黒く澄んだ夜空に浮かぶその虹は、なんとも不思議で、幻想的で、美しかった。私は、ずっと、その月を見つめる。ただ、見つめる。月に吸い込まれてしまいそうだ。思えば、はっきりと冴え、黄金色に輝く月よりも、薄い雲に覆われた朧月の方が私はすきだった。冴えた月が放つ鋭い月光は、私には眩しすぎる。霞んでいる月のほうが、な

          短編小説:幻を追いかけて

          詩:ジャズ

           ドラムの音が僕の内臓を揺らす。跳ね上がるピアノの旋律が僕の脳味噌を叩く。サックスの音色が僕の心臓を殴る。感情が音になる。音楽になる。そしてその音楽が僕の体に染み込む。音が感情になってゆく。音は叫ぶ。跳ねる。暴れる。蹴る。殴る。そして僕の内臓もぎ取ってゆく。心臓を握り締め、無理やり引きちぎる。そして音は僕の魂をさらけ出す。僕の魂を殴る。殴る、殴る、殴る。旋律が絡み合って一つになる。その大きな塊は僕を殴打する。低く鈍い音が鳴り、僕は全身にあざができる。僕の骨は粉々になる。僕は体

          詩:ジャズ

          東日本大震災伝承館

           高校二年生の、冬だった。周りに広がる景色は、どこか寂しさを感じさせた。建物の屋根は低く、平らに街が広がっていた。海の方をみると、やけに高い堤防があった。  そして、僕の目に飛び込んできたのは、壊れた4階の壁だった。  僕がこの日訪れたのは、宮城県仙台市にある、東日本大震災伝承館というところだ。高校の校舎が、ほぼ震災当時のまま保存されている。  バスから降りると、東北の寒さが僕を包んだ。空は雲に覆われ、しとしとと、弱々しい雨が降っていた。語り部という、震災当時の出来事を

          東日本大震災伝承館

          掌握:「死」の香り

           建物に入った途端、建物を満たしている匂いが、久しぶりに嗅ぐ匂いだと思った。この匂いは、葬式で嗅ぐ、あの匂いだった。この香りをかぐと、「死」という文字が僕の頭に浮かび上がる。「死」の香りだ。小さいときに葬式でこの匂いを嗅いで以来、この匂いの記憶が脳に焼き付いている。この匂いは、悲しみだとか、寂しさだとか、そういった人の感情を運んでいるように思える。一体、この匂いはなんの香りなのだろう。  エレベーターで地下一階に行くと、そこは線香の香りに満ちていた。線香の香りは、死よりも「

          掌握:「死」の香り

          不便な傘を使い続ける僕たち

           あたりが暗く染まり、外に出ると、雨が降っていた。道は雨に濡れ光沢をもち、白い光をぼやかしながら浮かべている。僕は傘を持っていなかった。パーカーのフードを被り、僕は歩き出した。雨は大して強くなく、パーカーのフードを被っていれば十分だった。小さく細い雨粒が、優しく地上に降りていた。東京の街の中で、人は皆傘をさしていた。  僕は梅雨の時期にあった豪雨を思い出していた。靴下は水がしみてびしょびしょになり、リュックに入っていたカフカの「変身」と太宰治の「走れメロス」が濡れてしまって

          不便な傘を使い続ける僕たち

          短編小説:夜雨交響曲

           塾が終わり、外に出ると、雨が降っていた。雨粒が地面に激しく降り注ぎ、どしゃどしゃと、小刻みに音を鳴らしていた。湿ったアスファルトの匂いが私の鼻に纏わりつく。私は傘を開いて歩き出した。強い風が吹き、傘に勢いよく雨粒がぶつかり、ぱらぱらぱらぱらと、大きな音が、私の頭上で、私を包むように鳴り響く。雨で濡れたアスファルトは、黒くつやつやと輝き、街灯の白い光を浮かべていた。  私は傘を首と肩ではさみ、イヤホンを耳に着け、音楽を流した。ビル・エヴァンスの「ワルツ・フォー・デビイ」。外

          短編小説:夜雨交響曲

          散文詩:秋の骸骨

           びゅん。びゅん。強い風が吹きつける。弱々しい力で、なんとか枝にしがみついていた枯葉は、容赦なく吹き飛ばされ、空を舞う。いくつもの枯葉が空を漂い、地面にそっと舞い落ちる。枯葉の雨だ。いや、枯葉の嵐だろうか。侘しい茶色の枯葉が、みずみずしい青空で踊っている。華麗なステップを踏んでいる。くるり。くるり。どんどん、枯葉が吹き飛ばされる。どんどん、秋が吹き飛ばされる。なんとか形を保っていた秋が、無慈悲に、崩されてゆく。美しい秋の景色が、寂しい冬の景色へと移りゆく。  僕は、時の進み

          散文詩:秋の骸骨