見出し画像

樋口一葉『にごりえ』 第七章 現代語訳

主な登場人物
・源七
・お初
・太吉

第七章は、再び、源七、お初、太吉の三人家族の話です。

第七章

思い出したところで、今さらどうにかなるものか。忘れてしまおう、諦めてしまおうと決意しながらも、去年の盆に二人で浴衣を揃えてお祭りに出かけたことが考えなくても何度も心に浮かぶ。盆になると仕事に出る気もなくなり、お前はそれではダメだと諌める女房の言葉が耳障り。
「ええ、何もいうな、黙っていろ」と横になると、「黙っていては、生活できません。体が悪ければ、薬を飲めばいい。お医者さんにかかるのも、仕方がないけれど、お前の病気は、そうではなく、気持ちさえ持ち直せばどこに悪いところがあるか。少しは正気になって働いてください」とお初は言う。
「いつもでも同じことだと、耳にタコができて気持ちの薬にならない。酒でも買ってきて、気晴らしに飲んでみよう」と言う。

ここから先は

3,172字

樋口一葉『にごりえ』現代語訳したものです。 現代語訳: 西東 嶺(さいとう みね)

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?