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退院から一年。

兄が倒れてから1年と8ヵ月、退院してから1年が経った。

やはり自分にとってお兄ちゃんは不思議な人なので、心配しながらも観察中(ごめん)。

「あの手続きはどうなった?」
「免許更新はちゃんと行けた?」
「最近外に出た?」
「血圧はどう?」

電話してみたりメールしてみたり。

「障害年金は申請したけどダメだった」
「免許更新は場所が遠くて、ケアマネさんに連れて行ってもらった」
「初めてバスに1人で乗った」
「スーパーにも1人で行ってる」
「血圧は薬を飲んでるから高くない」

一応、そのつど返事が来る。

「時間があるんだし、部屋の荷物をゆっくり整理したら?」というメールも送るのだが、そこだけは一切返信がない。相変わらずのお兄ちゃんである。反応がまったくもって想像どおりなのが可笑しい。あの桐谷部屋(←桐谷さんと言えばわかりますよね?)は、桐谷部屋のままということだ。

お兄ちゃんにとって、倒れる前までは徒歩3分で行けたスーパーが、今は徒歩20分。それでも、以前はヘルパーさんに頼んでいた買い物も、今は軽いものなら1人で買いに行くようになったようだ。

最近は銀行の支店の統廃合が多く、彼の居住エリアの支店も昨年なくなった。地味なできごとだけど、アナログ人間には影響が大きい。似たようなことは、わが家の周辺でも起きている。運動嫌いな私にとっては、「銀行や郵便局に行く」という目的があってこそのウォーキングだった。しかし、ここ5年の間に周辺金融機関がことごとくなくなり、まったく歩かなくなった。

現在、お兄ちゃんの住まいから一番近い銀行は、バスで3駅のところにある。乗車するバス停まで試しに歩いたら、片道40分かかったらしい。その話を聞き、なくなった支店の代わりのATM機が近くにないかネットで探したところ、いつも行くスーパーの中に機械だけ置いてあることを発見。なんだよ、あるじゃん。喜んでお兄ちゃんにメールしたところ、「宝くじを買いたいので、バスに乗って銀行に行きます」と返事が来た。

お、お前……。

その後、4回バスに乗って銀行に行けたらしい。「ヘルプマークは持ってる?」と尋ねると「持ち歩いてない」と返され、「宝くじもほどほどにしなよ」と電話で話すと、「免許更新に行ったら、補助輪付きでバイク乗れるんだって俺。今ほしい電動バイクが85万なんだわー。当てたらあのバイクほしいなあ」という返し。

お、お前ーーー。
ギャンブラーやないかい。

左側が麻痺していても、免許を更新できたのがうれしかったのかな。私が彼の立場なら、この先の不安ばかり考えると思う。が、いいのか悪いのか、本人は恐ろしいほどマイペース。「そのうちお金が尽きて、帰ってこざるを得なくなるから」と、姉はあきらめ気味だ。まあ、いずれ姉と私で彼の生活を支えていくことになるのだけどさ。どうしよう、こんなこと言っていて、本気で宝くじを当てたら。こういう人に当たったりするんだよな。お兄ちゃん、年末ジャンボ買ったかしら。

先日、「年明けに“おかしな刑事”シリーズもファイナルだって!」と、唯一の共通話題である2時間ドラマの最新情報をメールしたら、「毎日2時間ドラマの再放送ばっかり見てます」と返信があった。自分が興味のあることにはすぐに返してくるのでわかりやすい。調子に乗って、一昨日「17日にBS日テレで内藤剛志主演の新シリーズがあるらしいよ」と再びメールしたら、「新シリーズには興味ないです。ちなみに今日の再放送はドクター小石シリーズ」という返事が来て撃沈した。

新シリーズには興味ないんかーーい!

しかしそこから、ドクター小石シリーズの主人公を演じている橋爪功さん主演の2時間ドラマについて熱弁が始まる。『天才刑事 野呂盆六』『ヤメ判 新藤謙介』『人情教授 夏目龍之介』……。あれ?『新・赤かぶ検事奮戦記』は?って思ったけど、そこは敢えて突っ込まずにやり取りした。

そんなわけで、どうにかお兄ちゃんは無事に1年を過ごすことができた。助けてくれるケアマネさんやヘルパーさん、訪問リハビリや訪問クリニックであの桐谷部屋に足を踏み入れる方々には感謝しかない。来年はどうなるか全然わからないけれど、心配し過ぎても仕方ない。現状維持のまま、彼の行動範囲が少し広がっただけでも良かったと思うことにしよう。うん、そうしよう。

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