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おじさまのおはなし

今月のイベントに来られた
高齢のおじさまは

「市販の手ぬぐいで作っているから
文袋の価格が割高になる」

というあたしの言葉に答えて

「自分は剣道やってて手ぬぐいは
よく買うからわかっているよ」
と。

わかってくれるひとがいて
よかった。

そこが話の糸口で、次々と話が広がっていった。

おじさまが、昔、
剣道を始めた時、指導者から
「お前が一番下手だ。
やめた方がいい」
と言われたそうだ。

向かっ腹がたって
意地でもやめてやるか!
と思った。

それからずっとどんなときも
剣道を続け、やがて
アマチュアの最高位の段位を取り
今では
子供たちの指導をしているという。

おじさまは声を大きくして言った。

「下手くそなほうがええねん。
器用なやつはすぐ飽きてしもて
続かへんねん。
下手くそは
なんとか上手になりとうて
続けられるねん」

それはなんとも響く言葉だった。
文袋がそうだ。
不器用で下手くそだから
作り続けているんだな。
永遠のあすなろものがたり。

そしておじさまはかつては
染め職人だったと言った。

その仕事も長年続けたが
自分の作ったものが
高島屋で賞をもらったから
もういいな、と思って
やめたそうだ。

その達成感があったから
やめることができたという。

「あとを継ぐもんもおらんしな」
と笑いながら言った。

続けて「染め職人はなあ
すぐわかるねん。
あろてもあろても
染料が手にしみついて
おちひんねん。

飲みに行っても
すぐわかられてしまうねん」
と照れたように話す。

あー、高尾大夫や。
その手が生きてきた道を表す。

すっと手を上げて言う。

「今はもうきれいなもんやけどな」


読んでくださってありがとうございます😊 また読んでいただければ、幸いです❣️