銀座ブロッサム中央会館

これもかなり前のこと。

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夕刻より新富町まで行ってきた。立川志の輔独演会があった。

ようやく会えた志の輔さん。なかなかチケットが手に入らなかった。やれやれやっとだ。

志の輔さんは富山県新湊出身。だから事務所の名前が「ほたるいか」。明治大学出身で広告代理店に勤めていたという。

そんな志の輔さんのよく通る声はテレビとおんなじ、おんなじ顔だ。あたりまえだ。にせ札や水戸黄門の子孫の詐欺事件の時事話から古典へはいっていく。

猫きらいの道具屋の手先のはたきやの話。商売がうまくいかなかった旅の終わりに入った茶店で見つけた掘り出し物。猫の餌入れの鉢は上物だ。猫はきらいだが、猫を買うといってその鉢をせしめようというもくろみ。さてさてどうなるものやら。

その猫の嫌いかたのうまいこと。おもしろいなあ。笑ったなあ。古典が古典でありながら、その登場人物がごくごく身近に感じられる。いるよなあ、こういうひと。

ガッテン流の説得力がいきているのかもしれないが、なによりこのひとは古典を愛しているのだなあと感じられる人物造形だ。そうなるまでの精進があったのだろうな。広告代理店を辞めて選んだ落語の世界だものなあ。

中入りでダメじゃん小出というひとのジャグリングマジック。ちょっとつらいものがあった、ようやくそれが終ったあとゆっくりと舞台に出てきたひとがいた。驚きの声と拍手が漣から大波になって広がっていく。

はきならした細身のジーンズにカーキ色のジャケット。うわあ、家元だあ。そう、立川談志師匠が飛び入りで現れたのだ。おっどろいた!わが人生初めての生談志。

すっと舞台の中央に立つ。ちょっと小首をかしげて、間を計る。両のてのひらを体の前でこすりながらご機嫌伺いの小噺をいくつか。ひねった笑い。

こ、こんなことが起こるんだあ。サプライズだあ。こんなところで運をひろった。うれしいうれしいうれしい。笑点の大喜利を見ていた女の子もこんなおばさんになっちまいましたぜい。

思いがけない飛び入りのあとの志の輔さんの落語の冴えたこと。長屋の大家に呼び出された大工のはっつあん。めりはりのきいたやり取りで笑わせ、泣かせ、聞かせる。

妹のつるが殿様のお世継ぎを生んで、屋敷に呼び出されたはっつあんがふるまいの一升の酒を飲んでからおっかさんの伝言を告げるところ。うまいなあ。つやというのだろうか、輝きというのだろうか。そこにいる愛すべきはっつあんの親思い妹思いの情になかされました。涙こぼしました。

「つるのひとこえ」というサゲで話が終ったが、鳴り止まぬ拍手に幕は下りない。そこへ家元が現れスニーカーを脱いで高座に上る。師弟が二人並ぶ。

「長居しても邪魔になるだろうから帰ろうと思ったけど、ひきこまれちゃったよ」と談志師匠が言う。紋付袴姿の志の輔がかしこまる。

「小朝に、今に志の輔にもってかれちまうよ、って言ってたんだが、もっていっちまいやがった。志の輔、文句なし!」という談志の言葉と共に幕がおりた。師弟が並んで頭を下げた。ひときわ大きな拍手が館内に響いた。

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