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カラサキ・アユミ 連載「本を包む」 第13回 「あの金榮堂でシェイクとハンバーガー!?」

 ブックカバーのことを、古い言葉で「書皮しょひ」と言う。書籍を包むから「書」に「皮」で「書皮」。普通はすぐに捨てられてしまう書皮だが、世の中にはそれを蒐集しゅうしゅうする人たちがいる。
 連載「本を包む」では、古本愛好者のカラサキ・アユミさんに書皮コレクションを紹介してもらいつつ、エッセーを添えてもらう。

「置いてる本も素晴らしかったけど、何よりブックカバー欲しさに当時通っていたのもありましたね」

 北九州の小倉に1997年まで存在した今は無き新刊書店「金榮堂きんえいどう」の常連客だったという男性がしみじみとした表情で語った。

 文豪・松本清張まつもとせいちょうも通ったとされる老舗しにせ書店で、3階建ての建物には本がビッシリと並べられ、当時にしてはマニアックな品揃えだったこともあり電車賃を払ってでも遠方から訪れる本好きのお客で賑わっていたそうだ。

 元々出版社の経営者でもあった金榮堂の柴田店主の依頼により伊丹十三いたみじゅうぞうが手掛けたイラストが、とてもモダンで素敵だ。

 伊丹十三というと、母の本棚に並んでいた『女たちよ!』や『ヨーロッパ退屈日記』といった印象的なタイトルの文庫本で知っている程度だったが、こんなに魅力的な画力の持ち主だったとは。

 愛媛県にある伊丹十三記念館ではこのイラストのクリアファイルが販売されており、全国の書皮好き界隈でもかなり有名な1枚とのことだ。

 現在では町の書店や古本屋がことごとく消えてしまい私からすると物足りなさを感じる一方の地元・小倉の街に、このような伝説的な名店が存在していたとは……ますます過去への羨望の思いが沸き立った。

「この街の記録です。あなたに差し上げます」

 行きつけの喫茶店で何度か顔を合わせるうちに本にまつわる話をさせてもらっていた初老の男性から、譲り受けたのがこのブックカバーだった。この街で50年以上珈琲を淹れ続けている80代のマスターに見せると「金榮堂はいい本屋だった。僕もしょっちゅう行ってましたよ。懐かしいなぁ」と目を細めて呟いた。

 その帰り道、教えてもらった住所を手掛かりに街の中心部にあったという金榮堂の跡地に向かった。辿り着いてビックリ。なんとその建物は高校時代から私がよくお茶をしに立ち寄っていた馴染み深い場所だった(金榮堂の後にモスバーガーが入り、現在は空き店舗になっている)。

 かつて金榮堂があった場所で私はシェイクを飲んでハンバーガーを食べてたのかぁ……。その事実に何だか少し嬉しくなった。次にここにはどんなお店が入るのだろうか。願わくばお茶が出来るような場所だったら嬉しい。

 そしたら、今度はこのブックカバーを巻いた本を携えて訪れてみたい。


文・イラスト・写真/カラサキ・アユミ
1988年、福岡県北九州市生まれ。幼少期から古本愛好者としての人生を歩み始める。奈良大学文学部文化財学科を卒業後、ファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」の販売員として働く。その後、愛する古本を題材にした執筆活動を始める。
海と山に囲まれた古い一軒家に暮らし、家の中は古本だらけ。古本に関心のない夫の冷ややかな視線を日々感じながらも……古本はひたすら増えていくばかり。ゆくゆくは古本専用の別邸を構えることを夢想する。現在は子育ての隙間時間で古本を漁っている。著書に古本愛溢れ出る4コマ漫画とエッセーを収録した『古本乙女の日々是口実』(皓星社)がある。

筆者近影

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