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森に棲む3

森の遣いのボジュです。森に青年が来てから15年経ちました。青年は、なぜ森に来たのだろう。

「森に棲む2」から
けれど、中学生活が進むにつれ、少年は段々と気がつきました。「運動も勉強も自分より優れている友達がいる。」その時、胸がチクンとしました。家に帰り夕食を食べながら、ちょっと話してみました「今回の試験、僕よりAの方がテストの点数が良かったんだよ」なるべく、普通に話をしているつもりだったけど、なぜか心臓がドキドキしました。お父さんが言いました「そうか。仕方ないな。」「えっ!仕方ないでいいの。僕が一番じゃなくてもお父さんはそれでいいの」少年は胸がギュッとなりました。

その夜、少年は眠れませんでした。「お父さんは、僕が一番じゃなくてもいいんだ…。」細く開いたカーテンの間から月の光が差し込んできました。少年は、ベッドから身を起こし、カーテンを少し開けました。満月が白く輝いていました。

少年は、高校生になりました。もう、少年ではなく青年です。もちろん、地域一番の進学校と言われる高校です。高校の入学式にはお父さんがパリッとしたスーツを着て参列してくれました。そのお父さんの姿を見て少年は、誇らしく思いました。「僕はいつもお父さんの中で一番でいたいんだ」
 
お決まりのように聞かれる「将来の夢」に青年は「弁護士」と書きました。そして夕食の時に告げました。「お父さん、僕弁護士を目指すよ」お父さんは、箸を止めて青年の顔を見ながらゆっくりと話しました。「そうか。すごいなぁ。夢を持つことは大事なことだ」「うん。俺、弁護士か検察官か医者かって迷ったんだけどさぁ。弁護士にしたんだよ」「そうか、どういう理由で弁護士を選んだかはわからないが、目指すものがあることはいいことだ」「そうだろう。でね…」「でもだ、身の丈ってもんがあるんだぞ」「えっ?」「身の丈ってもんがあってな。お前は、確かに優秀だ。頑張っているのもお父さんは承知しているぞ。けどな、今の高校に入るのもやっとこだったじゃないか。もちろん、お前が努力して合格した時お父さんは嬉しかったさぁ。地域で一番の高校に入学したんだ。これでいいじゃないか。あとは、浪人しないで大学に入ってサラリーマンになれば安定した生活ができるさ。その程度で十分だ。なぁ、母さん」「そうですね。浪人されたら家計も苦しいですからね。入れる国立大学か公立大学に入ってもらえれば母さんも満足よ」

その夜青年は、カーテンの隙間から差し込む月の光が明るすぎて眠れませんでした。身を起こしてカーテンを開けると月は、満月から少しかけていました。

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