漫才 「自炊」

「最近家にいることが多くて」

「そうですね」

「己主体で煮炊きをする機会が増えたんですよ」

「自炊のことかな?その言い方だと縄文っぽさが否めないけど」

「主にアク抜きだとかみじん切りだとか」

「あ、実際結構縄文寄りですね」

「そう、でもいかんせんこんなに連日煮炊きをしたことなんてないからレパートリーが少ないわけ」

「確かに簡単な料理ってなるとすぐストックも尽きるよね」

「もう最近はもっぱらベシャルメルソースのマリネ作ってるからね」

「あ、ホワイトソースの酢あえ。いいね、何の栄養もないね」

「もう夜通しコトコトコトコト…」

「毎日煮込んでるから声帯模写めっちゃ上手くなってるよ」

「でも毎日白くて酸っぱ甘じょっぱいもの食べてるのは堪らんからさ」

「物理的に辛酸なめてるんだもんね」

「そう。だから何かレシピを教えてほしいのよ」

「なるほどね。まあ私もあんまり詳しくないけど一つ自信あるのがあるから教えるわ」

「こういうときに相方がいると良いですよねー」

「私のこと土井先生だと思ってる?」

「思ってるけど」

「そっか。じゃあまず、この料理は私オリジナルで名前が鯨のステーキって言うんだけど」

「鯨のステーキは普通に食べる地域もあるよ」

「いやそれは鯨の肉を焼いた食べ物でしょ?私が作ってるのは鯨のステーキって名前の全く違う料理だから」

「だったら絶対名前変えた方がいいよ」

「材料はじゃがいも、にんじん、玉ねぎ、肉、カレー粉」

「今のところノーマルカレーだけど大丈夫?」

「あと、これが大事なんだけどちくわと」

「ちくわ。なんかオリジナル感出てきたね」

「最後にポイフルの小分けのやつ。これは使い勝手いいから覚えておいたほうがいい」

「一人暮らしのライフハックみたいなの教えてくれた」

「そしたら料理の手順なんだけど材料の野菜は全部乱切りにして水にカレー粉を溶いてそこで肉と一緒に煮込んでね」

「まずはちゃんとカレー作るんだ」

「そのあとちくわを二つに割って狐色になるまで焼いたら」

「ちくわってもともと狐色だけどね」

「さっき煮込んだ野菜と肉をちくわで挟んで」

「むず!絶対こぼしちゃうよ」

「それを一旦放置して」

「めちゃめちゃ衛生的に良くなさそう」

「そうしたらポイフルの下処理をしてほしくて。ポイフルの捌き方って家庭科で習った?」

「習ってないよ普通は。ポイフルを甲殻類の扱いするなって」

「じゃあ簡単だから覚えておいてほしいんだけど、砂糖の部分が殻になっててそこを前歯で齧ると中のゼリー部分が出てくるから。殻とゼリーに分けたら下処理終了」

「全部過食部だからその作業いらないけどな」

「で、下処理が済んだポイフルの殻を火にかけて溶かして」

「砂糖の気持ちになってみてよ。一旦ポイフルとして販売された我が身が再びただの砂糖と化すのは辛すぎると思う」

「いい感じにとけたらさっき放置してたちくわバーガーの表面に刷毛で塗ってね」

「ニスみたいにするなよ、かつてポイフルだった者たちを」

「で、ポイフルのゼリー部分を皿に敷き詰めて」

「キッズルームじゃん」

「その上にカレー挟んだ砂糖塗り焼きちくわを乗せたら完成」

「…きっも」

「これがもう筆舌に尽くし難い味わいなのよね。ファンタジーの鯨の味がする」

「虹色の潮吹いてるやつじゃんそれ。あれ絶対食用じゃないから再現しないほうがいいよ」

「この鯨のステーキ、ベシャルメルソースのマリネかけても美味しいから作ってみてよ」

「いやコンビの2人ともベシャルメルソースのマリネを普段使いしてるの意味わからないから一旦1人にさせてもらいます」

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