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映画「ファーストラヴ」感想(ネタバレ)

予想外によかったというか、終始辛いものが続くんだけど、そこがよかったという感じです。刺さりました・・・。

観る前の印象

「ドクター・デス」(北川景子と綾野剛のW主演。重要キャストに木村佳乃)、「屍人荘の殺人」(中村倫也がメインキャスト?で出演)が自分的に「えっ・・・なんか思ってたのと違うぞ・・・」という作品だったので、半信半疑だったんですが、「あのこは貴族」「花束みたいな恋をした」などの感想を読み漁っていた際に、「最近の映画はジェンダーの描かれかたがアップデートされているね・・色々踏み込んで描かれている」的なニュアンスの感想を度々見かけたため、観賞に至った。見てる途中から木村佳乃が出てきて、「ああ!ドクターデスの布陣だ・・・。木村佳乃は大好きだけど役者の技量任せで、物語やメッセージ性があまりにもお決まりで、えっ?となるパターンか??ううっ」と不安で手に汗を握ったという一瞬もあったりした。

(ドクターデスがいかに自分の期待とは違ったかを書いている記事)

ここからは観賞後の感想を言います。

「ゆうじさん」

この人の存在が、本当に忘れられないものとなった。(最初は、「モンスターエンジンの西森に似てる」と思った。)単に出来事だけを羅列したら、「きもい・・・。何言っても生理的に無理だわ」って感じてたかもしれんけど、映画を見てて一ミリもそう思わせないのは物語の力なのか役者の力なのかよくわかんないんだけど。とにかく証言台に立った瞬間「え・・・、まじで???」と本当に驚いた。かなり覚悟のいることだと思うし。これのせいで、この先ずっと社会的に生きづらさを抱えていくことは必至なのに。ここが1番の「救い」と思った。本当にね。一挙一動が現実味というか。最初会った時、本当に迷惑そうだったし、「蒸し返さないでくれ」っていうオーラが身体中から発されてて、見てるこっちも「うわぁ・・・。被害者にとって最悪な、善良な市民・・」という気持ちに包まれた。生々しい人よね。善良なんだけど、最悪な善良よ。この感じ。ううぅ。辛い。渋々語り出して。本当のこと言ってくれるだけでもかなりの収穫だし、もう、これ以上は無理だな・・・。っていう面持ちだったわけよ。だからそれが覆った(法廷で証言してくれた)時に「うわあ!」って涙が出たね。なんと言っていいのか。「なぜ、あなたは10年前のことを今になって証言しようと思ったのですか(セリフうろ覚え)」「罪の意識からです。あの時、トラブルに巻き込まれたくなくて、彼女を見捨てました。私には今3歳になる娘がいます。今、同じ場面にあったとしたら、家庭で酷い目に遭っていた彼女を救うことを考えられたと思います」(意訳)。ありがとう。こう聞くと、本当に大人が子供にすべき当たり前の姿勢。だけどそれが当たり前じゃない現実がいっぱいあるんだ・・・っていう現実感。そういうとか、色々なものが押し寄せてくるようなシーンでした。

病室で過去を告白する場面

この物語の根幹となる部分が、クライマックスを迎えるのはこのシーンだったように思います。北川景子演じる由紀がずっと打ち明けられなかった、胸のつかえが一気に決壊する。観ているこちらも本当に・・・・涙なしで観ることはできません(凡庸な表現・・)。本当に大切な人。ずっとそばにいてほしい人。大好きな人。だからこそ、言えない。言えなかった・・・。「気持ち悪いよね」って。本当に辛い・・・・。けど窪塚洋介演じる夫の我聞さんが全て受け入れてくれて・・・由紀、よかったね。本当に。この映画のお話の中で、由紀って過去や環菜ちゃんと向き合うために、いつも張り詰めてたり、緊張感があったりで。重いのよね。あるいは仕事の顔で頑張ってる。だけど、我聞さんの前ではリラックスしてて!!!すんごい良い笑顔!こっちも癒される。「やっぱ北川景子、可愛いやん」ってなる。だから、我聞さんに最後にようやく打ち明けられて、心からよかったねと思った。だけど打ち明ける瞬間や、その直前のシーンとか、ずっと胸が苦しい苦しいとなっていて、こっちも苦しくなるほどに辛かったわ・・・。

ラストの環菜ちゃんの手紙

「法廷で証言した時の話を、みんなちゃんと聞いてくれて、私の話を聞いてくれて、よかったです(意訳)」的なところで泣けた。本当によかったね・・・。長い間ずっと「言ってはいけないんだ・・・」「言っても迷惑をかけるし、誰かを傷つけるんだ・・・」って思ってもんね。(今思ったけど、心が叫びたがってるんだ、と同じだね)。私も「これは言ってはいけないんだ」ってずっと自分で勝手に決め込んで、それを封印してて、自分で自分に強く言い聞かせて、それが苦しいっていう感覚がどこか見覚えのある感触がするので、すごい「よかったね」「言えなかった期間苦しかったね」と心から思った。刑務所の中で不自由なことも多いかもしれないけど、歪んだ苦しみから抜け出して正直に反省して罪を償える方がどれだけ精神的に救われるか、ってことを感じた。

「それ、セックス依存症でしょ」

一瞬、意外な一言すぎて、空を突かれたというか。「えっ・・・!」ってびっくりした。あの北川景子の鋭い視線が忘れられないほどに。こういう時って、どう考えても相手の言ってることおかしいやろ、って思っても、言えないだろうに。ってか、空気に飲まれて、「えっ、私がおかしいんかな?」ってこう、丸め込まれそうになるけど、「それ、セックス依存症でしょ。お母さんの愛情が足りてないから、それを求めてるだけ」って切れ味が良すぎて、見事だった。由紀本人のあの状況で自分も傷ついて、色々余裕なかったろうに。見てるこっちは「あ、こういうこと言って良いんだ」ってなんか、解放された気持ちになった。なんていうか、自分には非がなくてむしろ、自己主張しても良い場面でも、「言ったらダメなんじゃないか?」みたいな社会的通念みたいなのにまみれてるなという気持ちに気づくというか。そんな感じです。

装置と、物語

この映画には装置っぽい部分が割とあるな、と「あの頃。」「花束〜」「あのこは貴族」などを鑑賞した後だったのでそう思った。由紀が心理士じゃなくても、迦葉が弁護士じゃなくても、成り立ってたから職業は装置。例えば弁護士は別にいて、迦葉が別の職業でも話としては成り立つ。我聞さんは写真家じゃないと無理だけど。環菜ちゃんが人を殺してなくても、この話は成り立つ。だから事件も装置。だなと。だからって物語の説得性が薄れるわけでもないし、人物の感情の揺れ動きやリアリティに影響が出るわけでもないから、それとこれとは別なんだな・・・。って。あまり普段映画を立て続けに見ない自分が、今の時期たまたま立て続けに見たことで感じることのできた部分だなと思った。

窪塚洋介への個人的な感情

窪塚洋介って、もう、存在がなんか「ただものじゃない」「何かを抱えている人だ」っていう印象なので、こう、最後まで我聞さんがエクソシストになる可能性が1%は残されているというか(伝わるでしょうか)、こう油断ならない感じだった。最後まで、最初の通り良いひとで終わったのでよかったけれど(笑)。この一筋縄でいかない感じが強すぎて、元々違う人でキャスティングされてたのでは???と勝手に想像したりもした。色々想像した結果、玉木宏という結論に至りました。おおらかで優しくて包容力のある、中村倫也の兄と言われて違和感のない年齢でというイメージです。関係ないけど、窪塚洋介といえば私の中では永遠に「少年H」のおとこ姉ちゃんの役だなぁ。もういつだったかも忘れたけど、あの話自体まだドラマとか映画とかよくわかってないぐらいの時期に見た私にとっては衝撃だったわ。ただただ、肇に優しくて、穏やかな人だったのに、無理やり戦争に生かされて・・。あとはストロベリー・オン・ザ・ショートケーキね。とにかくその2つ。

個展の写真が普通に感動する

全ての写真がよかったわ。辛すぎる物語の中で唯一救いになるから余計に輝いてみえたのかなぁ。あの父娘の写真、本当に眩しくて由紀と一緒に泣けたわ。

過去に戻ったのが一瞬わかんなかった

富山に取材に行って、1日目は雨の中、迦葉の腕を振り解いて走り去った由紀。2日目はバスに乗って・・海の見える場所で・・・え??デート???Why?急に雰囲気いいやん?と途中まで現在のままの感覚でいたら、過去の回想シーンだったぜ。割とずっと気づかなくて、ホテル行って、迦葉がシャワー浴びるあたりでようやく気づいたわ(おそ)

中村倫也のせめぎ合い

中村倫也のあの、なんとも言えないセクシーさというかフェロモンというか。それって結構ファンタジー要素あるじゃないですか。全体的に。だから、ソノォ。この作品の中ではそのファンタジーエロが出てくると違和感があるのね、恋愛要素が・・・なんというか。だから、割と、そのリアリティ感に合わせてファンタジーエロティックが抑えられてはいたものの、完全には封じ込めてなかったように感じて、少しその色気がノイズに感じてしまったというか余計な要素では!と私の心の中の何かしらの取締り委員がざわついた感じです。

ミステリー、サスペンスにありがちな・・・

この作品を見て思ったのは、こう、私はどちらかと言えば、漫画でも小説でもドラマでも映画でもミステリーとかサスペンスとかを好んで見るタイプで昔からそうなんだけど、ありがちなトラウマの描写として性被害って頻出するじゃないですか。やっぱり、こう人間を狂わせるもの。という象徴というか。だから物語上、割と残酷に描かれる部分ていう印象で、ある意味観るものにもトラウマを与えるレベルに・・・。本当に多いですよ。もう。全部じゃないですか。今まで何回も見せられたことか。その・・それに関してはどうっていいたいわけじゃないし、その人間を狂わす動機にはそれ相応の残酷な理由がないと成り立たないわけだから、仕方ないというか。(映画「怒り」とか今でもあの、広瀬すずちゃんのシーン忘れられないつらいよね)だけどこの作品では、残酷性にフォーカスされていないというか。残酷だからトラウマだよね、みたいな。嫌がる被害者を無理やりに性的暴力をふるいまくり残酷までに尊厳を踏みにじる・・・その残酷度合いで、そのショックさ、真理的な負担を語るわけじゃない。その・・・概念。タブー感というか。この穢れの概念というか。誰にも打ち明けられない。このジメジメ、ジトーーーッとしたこの暗くて閉鎖的な。自分自身でも認めるわけにいかないこの、心理的なダメージ。年月をかけて、静かに心を殺す。侵食していく。忘れようとしても。忘れられない。みたいな、この暗雲たる様子。この「感じ」こそが、「度合い」よりもつらい部分なんだよ、っていう。ようやくそこに気づいてくれましたか(自分も気づけてなかった)みたいな。そういう作品です。

性被害っていうもの

性被害ってもの。物語の中では、そうやって、人の心を殺す。必ずトラウマを与えて人格を破壊させるもの。って明確に描かれるもの。それをみんな社会全体で共有認識しているはずなのに・・・今もどこかで起きている。犯罪としてあまりにも当然に今でも続いている。電車での痴漢も、夜道での痴漢も。身近な人から受ける理不尽なもの。パワハラと密接に繋がり起こるものも。今ようやく、子供への性教育をどうする?っていう話題がオープンにされているように思うけど、私らが子供の頃ってどうやったんやろ?本当にタブーで誰もが無知だったよね・・・。とにかく、「女の子は夜道に気をつけなさい」っていう。得体の知れないものに対して、とにかく自己防衛が必要だっていうことだけは強めに言われて。何が危ないの?具体的には教わらない。その奇妙な・・・。奇妙な感じ。今思えば。母も祖母も。あるいは父や祖父も。何か、こう、危険を感じたり、不快なことに直面したり。何か具体的な記憶があったのかも知れない。それでも、全てが、モヤがかかっているような、そういうタブーに包まれた存在。それが私にとっての「性被害」というものだった。とにかく怖くて・・・。手塚治虫の漫画をよく読んでたが、「アドルフに告ぐ」とか「奇子」とかを小中学生ぐらいの時に読んで戦慄してた記憶。とにかく恐ろしい。でもその・・・うーん、表現しにくいけど、そのフィクションの中の話と、現実の話と。なかなか、こう、どう整理したら良いのか、割と誰にも教わらずに大人になってしまって。今も、色々と、どうしたら良いのかわからない部分も多い。言語化しづらいテーマ。現実に、ありふれているもの、っていういろんな報道や身近に話を聞いたり。身近なんだけど、身近だよね、じゃなくておぞましいというか。でも現実で、どこかで被害を受けて人格を破壊されている人がいるけど、社会が普通に回っていて、満員電車も亡くならなくて、この世の中は何なんだ?みたいな信じがたい感情になることも多い。その、勝手に自分の中でそういうことが気になっていること、うまく伝えられない。「わざわざ、必要とされてもないのに、興味本位で足突っ込ん出る感じあるけど、あなたはそういうの向いてないからやめた方がいい」って言われたことあるんだけど、それもそうだなと思う一方で、なんか釈然としない。とりあえず、言語化が難しい(2度目)

言えないことがいえる、その決壊の瞬間を描く物語

だなと思いました。終わり。

追記。

病室のシーン・・・の感想で書き忘れたけど、「過去の君も含めてキミだよ」(意訳)と窪塚洋介が言ってたの、わりと話の中でも重要なセリフだったと思うけど、この感じ「すばらしき世界」でもあったよね。ケースワーカーさんが介護職を勧めてくれるっていう場面。世の中、過去の過ちなかなか許してくれないから、許して欲しいっていう今の世間だよね(雑に)

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