映画の本とタランティーノ
監督の自伝、インタビュー本を読むのが好きで、フィルムアート社から刊行されている映画の本はよく読んでいる。
この類の本は映画コーナーにたくさん置いてあって、『バートン・オン・バートン』や『クローネンバーグ・バイ・クローネンバーグ』、『スコセッシ・オン・スコセッシ』や『テリー・ギリアム/映像作家が自身を語る』、
『デビッド・リンチ/映像作家が自身を語る』など、たくさんあった。
その中でも何度読んでも面白いのが、『タランティーノ・バイ・タランティーノ』である。まぁ、好きな映画監督の本は面白い。
1996年か97年頃までのタランティーノの物語がまとめられているこの本は、
読み応えもたっぷりで、非常に面白い。
タランティーノは大好きな監督で、然し、正直LA3部作というべきか、『レザボア・ドッグス』、『パルプ・フィクション』、『ジャッキー・ブラウン』の3本が掛け値なしに傑作だと思っている。初期LA3部作である。
これの他に、トニー・スコットが監督を担当した『トゥルー・ロマンス』もその系譜に連なると思う。
『トゥルー・ロマンス』はある種タランティーノ作品の最高傑作で、彼が売れていない頃に書いた脚本だが、その頃の鬱屈した思いが溢れんばかりに作品に昇華されている。
音楽にはこの映画の下敷きになっているテレンス・マリックの映画、『地獄の逃避行』の音楽も使われている。
彼は今な無きビデオ・アーカイブスでスタッフとして働いていたわけだが、30までに監督になりたいと日々を過ごしていた。
結果、彼は29歳で『レザボア・ドッグス』で長編監督としてデビューして、サンダンス映画祭で喝采を浴びた。
組んでいた売れないプロデューサーのローレンス・ベンダーの知り合いの知り合いがハーヴェイ・カイテルの奥さんで、ある日ベンダー宛に電話がかかり、
『ローレンス?ハーヴェイだ。『レザボア・ドッグス』を読んだ。話がしたい。』
というメッセージが届いたそうだ。
映画のような1シーンで、彼が主演するお陰でお金も集まって、約1億円の制作費で作られた『レザボア・ドッグス』は彼の出世作になった。
続いての『パルプ・フィクション』はおそらく最高傑作だと思うけれど(永遠に、何度も観ていられる心地よさ!)、制作費が800万ドルなので、約8億〜10億円の予算である。これはカンヌ国際映画祭のパルムドールを受賞した。
先の本では、出演者のビング・レイムスが、この映画では基本給+歩合として総興行収入の1%をもらえる契約を俳優は結んでいたと書いてあって、この映画は1億2000万ドル(約120億円)だから、1億円はもらった計算になる。
また、サミュエル・L・ジャクソンもこの作品のジュールス役を初めから決まっていたのを、タランティーノがポール・カルデロンにしようかと少し迷いだして、怒ったサミュエルが演技勝負で役を勝ち取った、というエピソードもいい話だ。ポールは残念賞として、バーテンの役になった。
その後、『ジャッキー・ブラウン』があって、これは原作付きの映画だけれども、すごくムードのある映画で、選曲センスもよく、大好きな作品である。
上記の3本は、90年代の匂いに溢れている。時代性が濃厚に漂っている。
この後、舞台に出たりで忙しいタランティーノは6年越しに『キル・ビル』と『キル・ビルvol2』を撮り、そこから1本だけ傑作の『デス・プルーフ』を撮ると(どうでもいいが、『グラインドハウス』の『プラネット・テラー』の
女医さんのマーリー・シェルトンが好きである)、
架空復讐物シリーズへと移行した。それらが『イングロリアス・バスターズ』(VSナチス)、『ジャンゴ/繋がれざるもの』(VS南部白人)、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(VSマンソン・ファミリー)で、間に『ヘイトフル・エイト』が挟み込まれる。
正直、2009年以降のタランティーノは個人的には精細さを欠いているように思える。
予算は潤沢、俳優は豪華、なのであるが、何度も何度も中毒のように観ていたくなるダイアローグの良さが消えていて、一定の面白さはあるけれども、一度観たら十分である(ジャンゴはディカプリオが頑張っていてそこそこ良かったが、ヘイトフル・エイトはひどかった)。
現代、それもLAを舞台にした作品こそ、彼の持ち味が遺憾なく発揮されているように、個人的には思える。
そして、それらは映画・フィルムを愛してやまないタランティーノには誠に申し訳ないのだけれども、ビデオ、それもブラウン管で流されたときにこそ、神化するように思える。
タランティーノは10本長編を撮ったら引退すると公言していて、一応、既に10本撮っている。
キル・ビルを1作と考えると、次で終わりである。スター・トレックを撮る予定などがあったり、『キル・ビルvol.3』の噂があったりするが、個人的には、また現代のLAのおとぎ話を創って欲しいものである。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?