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追悼のざわめきと豚鶏心中


 最近、ようやく『豚鶏心中』を観ることが出来た。松井良彦監督の2作品目である。『錆びた缶空』、『豚鶏心中』、『追悼のざわめき』、『どこに行くの?』の4本が長編作品で、私は表題の2本しか観ていない。
『追悼のざわめき』、『どこに行くの?』の2本は比較的簡単に視聴できるが、それ以外の2本はそれなりに困難だ。

『豚鶏心中』は1981年公開作品で、すごく単純化するとラブストーリーになるのかと思う。しかし、それを彩るパーツの全てが強烈なインパクトを持って観るものに叩きつけられる。
有名所は包帯を全身に巻いた集団の暮らす集落や、豚の屠殺を延々と写し、そのBGMに『君が代』と『さくらさくら』を流すシーン、豚に汚物をぶち撒けるシーン、○○○○の写真をカットバックさせながら行われる男女の自慰シーンなどであろうか。

それと、死んだ犬にガソリンをかけて火をつけるシーンがある。一気に燃える。これもまた強烈なシーンだ(画像は火をつける寸前です)。

全体のストーリーラインは単純なものだが、あらゆる説明の一切がないため、登場人物たちの心は読めない(セリフも極端に少なく、ないに等しい)。
監督は寺山修司に私淑していたと聞いて、なるほど確かに寺山の世界観が濃厚に香るようだった。

白眉なのは少女が集落の家々の間を走り抜ける長回しシーンである。二回、同様のシーンが流れるのだが、一度目は集落のそこここに包帯を巻いた人々が立ち並び、それを縫うように少女は走り抜ける。二度目は伽藍堂とした家屋のみで、その対比が妙な郷愁・幻想性を生む。
このショットの美しさ、異様さはちょっと他では拝めない。

映画としての完成度は『追悼のざわめき』が圧倒的に上で、かつ美しい(とはいえ、描かれているのはどちらも闇鍋のような世界だ)。この美しさの為のステップとしての作品なのだとして、私はこの御伽噺を観た。



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