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熱国の夜

『千夜一夜物語』は様々なバージョンが存在する。

そして、タイトルは『千一夜物語』とも言われる。

ササン朝のシャフリヤール王は、妻の不貞を知り、妻と、密通した奴隷の首を刎ねた。それからは、街の娘たちを一晩抱いた後、首を刎ねて殺した。
王を止めるために、1人の娘、シェヘラザードがシャフリヤールに嫁ぎ、そして夜伽の後に、王に面白い話を聞かせた。然し、シェヘラザードは話を途中で終わらせる。「このお話の続きはまた明日……。」
そうして、王はそれらの話を聞くために、シェヘラザードを生かし続ける……。
そうして語られるのが、『千一夜物語』である。

美しいタイトルである。英語では、『アラビアンナイト』と言われるが、そのアラビアの夜というタイトルも美しい。

女は一晩抱いて殺すというのは、『HUNTERXHUNTER』における暴君ツェリードニヒを思い出させるが(まぁ、ツェリードニヒは生まれながらの畜生ですが……)、シェヘラザードはアラビアの夜を彩る話を様々語り、それはヨーロッパの人間の中東幻想を膨らませた。

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『千一夜物語』といえば、アダルトな挿絵が入った洋書を輸入して取り寄せた谷崎が、その絵を密かに楽しんでいたという逸話もあるように、バートン版の訳のバージョンでは、オリエンタリズムとエロティシズムを誇張して描かれる。

ガラン版の『千一夜物語』の決定版が2019年に岩波書店から刊行されている。1冊3,500円もする高価な本だが、装丁が美しいのである。
黒い背表紙に、青い夜空のようなカヴァー。物語は人の口から語られて、然し、本という不思議なものは、開くだけでそれ以上の恍惚を与えてくれる。
ガラン版は、優等生的だという。下品な表現を排し、物語を際立たせている。

「王さまが明日もわたしを生かしてくださるのなら、もっとおもしろいお話をお聞かせできるでしょう」

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私達は、面白い話を聞くために生きている。人は物語なしでは生きていけない。『千一夜物語』は、実際には千もの夜はなく、300弱の話があるばかりである。

『シェヘラザード』はバレエの演目でもある。
ロシアの伝説的バレエ団、そこに属した天才バレエダンサーのワーツラフ・ニジンスキーの踊る、東洋の幻想。

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私達は、幻想を視るために生きている。そして、その幻想とは、天空に瞬く星のごとく、千一夜、いや、幾千億もの夜を照らすほどに、世界に溢れている。この本は、その中の一部を、美しく取りまとめたマジカルブックだ。


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