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100年待っていてください。


夏目漱石の『夢十夜』の第一夜に、

「百年待っていて下さい」と思い切った声で云った。
「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。きっと逢いに来ますから」


という言葉がある。

車谷長吉は、随筆の中で、小説を書き続ける決心として、この言葉を挙げている。
彼は若い頃に新人賞候補になり、然し、その後、小説家としての本腰を入れる前に、各地を贋世捨人として転々とした。
才能があったが、小説から逃げていた。

彼は30半ばになって、再び小説家として生きていく決意をしたときに、100年待つつもりで小説を書こうとしたという。100年、誰かが見つけてくれるまで、待てるのか。

結果、彼は10年ほど待つだけで直木賞を受賞した、という旨のことを書いていたが、100年待つ、小説家になりたい人は、そのような思いを抱いた方がいいかもしれない。

10年後にはどうなっているかわからないが、五大文学賞(文學界新人賞、新潮新人賞、すばる文学賞、文藝賞、群像新人賞)、それぞれに出せる作品を、真剣に1本づつ、計5本書く。そうすれば、30年も続ければ、150本もの作品を残せる。

全て、真剣勝負の150本だ。
遅筆の人は、年間1本でもいい。そうすれば、真剣勝負の30本が残る
では、もうあと少しで命が尽きるのならば?それでも、やることは変わらないはずだ。あなたは、100年待たなければならない。

100年待っていても、誰も来ないかもしれない。
けれど、それだけの数を書いたのならば、それはもう小説家ではないのか。
小説と生きてきたのだから。

あなたが100年書き続けられますよう。

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