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青海


荒々しい肉体があった

少年の頃より 紺碧の海に嬲られ

水底に散らばる いくつもの星々を 追いかける日々よ

星に照らされた手帳 幾重にも書きつらなる詩の調べに

重苦しい黒雲 覆い被さりて

大鴉 船に舞い降り 男を見つめ

まぼろしの声に 耳傾けまいと

飛沫散る中 裂けし手の皮より滴る血よ

自らをマストに括りし英雄の

惑いをもまま受けず

海の血潮に流されし己が肉叢

灯台指すは 塩塗れた港 

夏の盛り場 酒場には女体溢れて

漁師どもの嬌声 カジキの目 春売る娘のその匂い

其処にあっては 年端もいかぬ乙女

ほほ笑む様は 小夜更けた月の如し

妖精めく顔立ちの レース襞から乱れる御足に

白薔薇にも紅差すこと知りて

乙女の歌声に 夜の帳が降りるとき 

肉体を伴い紅差した一条の真白き水沫を見た

朝陽にて 海洗われて 

稀なる美しき身体にて 男は銛を磨く 俺は星座を娶ると
 
夜ごと 耳もとに死の羽音聞きながら

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