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科学研究とお金

最近、以下の本を同時並行で読んでいる。

インベスターZ (全21巻) Kindle版 https://amzn.to/3tkbMNw @amazonより

学術出版の来た道 (岩波科学ライブラリー) https://amzn.to/48mSBRS @amazonより

『インベスターZ』は投資を題材にした漫画で、「ビジネス」や「お金」の話である。一方、『学術出版の来た道』は、学術出版社の歴史を巡るテーマである。

ちょっとここで学術出版について補足しておきたい。研究者は自分の研究を論文にまとめて終わりではなく、その論文を学術出版社の雑誌に投稿する。『Nature』や『Science』という雑誌の名前を聞いたことのある人もいるかもしれない。雑誌に投稿された論文は、「査読」というプロセスに進む。これは、自分の研究分野の別の研究者が、投稿された論文をチェックして、出版にふさわしい内容か確かめる。査読の過程で、論文内容の修正を迫られたり、場合によっては掲載不可と投稿を却下されることもある。無事、査読に通った論文は雑誌に掲載されるのだが、研究者や大学図書館は雑誌の購入や、論文を雑誌に掲載する際にお金を払う。しかもその額は高価な場合も多く、場合によっては論文掲載に100万円近くかかることもある。つまり、研究者に論文を投稿してもらい、その論文を出版することで雑誌社は利益を得るのである。

何故、そこまでして研究者は論文に雑誌を載せるのか?これは、「評価のため」という側面が強い。研究者の職探しでは業績が最も重要だが、その際に「雑誌社から出版された論文を書いていること」が特に業績として評価されるのである。査読を経ていない論文の評価は下がってしまう。こういった事情から、研究者は論文を雑誌社に投稿せざるを得ない環境となっている。

さて、話を戻そう。一見、関係ない様に見えるこれらの漫画と本を同時並行で読んでいるので、「お金」という観点での科学や研究、学術雑誌について考えさせられる。学術出版社は購読料や投稿料が高いという批判を受けるが、それでも「これは研究者を対象としたビジネスとしてイケる」と踏んでいるからこそ長い歴史があるわけで、利益を求めるビジネスの立場の人に対して、「科学が人類にとっていかに大事であるか」という研究者の哲学や価値観で訴えても響かないだろうと感じた。ビジネスにとっては、どんなに立派な大義や価値観よりも、「利益が出るかどうか」が重要な視点だからである。

ビジネスチャンスがあるからマーケットがあるわけで、購読料や投稿料が高いのを本当に嫌がるなら、研究者がそのマーケットから手を引く、例えば、ジャーナルに頼らない業績評価や、arXivなどでのプラットフォームを用いた文献検索をメインにしていき、学術出版社にとって「このマーケットは魅力がない」と思われない限り、学術出版社からからの脱却は難しいだろう。

研究者は、とかく「お金が足りない」状況になりがちだが、それに対して、「科学の重要性」をメインに押し出して、国からお金を出してもらう様な姿勢だと、市民の理解は得るのは難しいし、かと言って、ビジネスとして企業からお金を出してもらうとなると、企業にとってどういうベネフィットがあるかを示せないと難しい。お金を投資してもらう事はそれだけ難しいことなのである。ノーベル医学・生理学賞を受賞した山中伸弥氏は、研究費を捻出するためにマラソンをしたり、最近ではクラウドファンディングで研究費を捻出するのも盛んになっている。これらは、自分の研究内容の意義を相手に伝えることで、投資してもらう例だ。

「自分たちは科学という人類知に貢献することをやっているので、高尚なんだ。だから、お金を出してもらえる」という姿勢では、外から見れば思い上がりにしか見えないため理解を得るのは難しいし、「じゃあ、お好きにやってください」と言われて終わりではなかろうか。クラウドファンディング等で研究者が積極的に、一般市民、ビジネス界隈に訴えて資金を集める事も重要だと思う。ただし、ここで勘違いしてはならないことがある。それは、「きちんと科学的に意味のある研究内容をやっている」が前提にあって、その上で研究の重要性をアカデミア外に伝えていく必要があるということだ。最近のメディア報道を見ていると、科学コミュニティーから批判が上がっている内容を取り上げる例も目立つ。「天才科学者」という肩書に振り回されたり、「何となくすごそう」や「内容が無いのにプレゼンがうまいから騙されてしまう」という、市民の科学リテラシーの低さがそういった状況を招いている一因だろう。これは、科学コミュニケーションやアウトリーチ活動とも関係ある話だが、それだけで別の記事が書けそうなので、今回は控えておく。

何事にも「お金」が必要であり、そのお金をどうやって持ってくるかを考えることは、お金を出してくれる人に対して、どういう利益(経済的リターンだけではなく、広い意味での)をもたらすことができるのかを考えないといけない。何故か、「お金を稼ぐことは汚い」という価値観が日本では持たれがちだが、そういった考え方に対しても『インベスターZ』は一石を投じている。科学者・研究者が研究するにもお金が必要であることは間違いないので、科学者や研究者が「お金」について考える事も大事なのではないかと思った。

ということで、私も自分の思考に価値を付与して、お金を稼ぐということをしたいので、この記事に対して、皆様からのサポートをいただけると嬉しい。

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