見出し画像

宇宙での距離測定②

前回、年周視差を用いた宇宙での距離測定について紹介しました。https://note.com/bukuro1029/n/ncc8920474e51

今回は、宇宙における距離測定として、「星の明るさを利用する」方法をご紹介いたします。

今回、キーワードとなるのは、「星の見かけの明るさと距離」と「変光星」です。

まず、「星の見かけの明るさと距離」について以下の図を御覧ください。

星の見かけの明るさと絶対等級

例えば、ろうそくの火を観測する状況を考えてみましょう。このろうそくが1m先にある場合は問題なく見えるでしょう。では、このろうそくが100m先にある場合は?おそらく、ろうそくの火はほとんど見えなくなるでしょう。我々から見えるろうそくの明るさは距離の二乗に反比例するので、遠くの光ほど暗く見えるわけです。

しかし、ろうそくの火自身は、1m先にあろうが100m先にあろうが明るさが変わりません。変わっているのは、「見ている人にとっての明るさ」なのです。天文学の世界では、ろうそくではなく星の光を観測しますが、上記の様な観測者に取っての明るさのことを「見かけの明るさ」と言います。見かけの明るさは値が小さいほど明るく、例えば、太陽の見かけの明るさは−26.74等級で、太陽以外の恒星で、全店で一番明るいシリウスだと−1.46等、北極星(ポラリス)は2等星です。

また、ろうそくの火自身の明るさの様に明るさの基準となる星固有の明るさのことを「絶対等級」と呼びます。ただし、絶対等級は、「天体が10pcの位置にある場合の見かけの明るさ」として定義される事にご注意ください。(星固有の明るさという表現より、異なる天体の明るさを比較する時の基準となる明るさという表現が良いかもしれません。)

さて、この「見かけの明るさ」「絶対等級」、そして「天体までの距離」の間には、以下の様な関係が成り立ちます。

距離と明るさの関係

この関係式で重要なのは、3つの量のうち、2つの量が分かれば残りの一つは決定できるということです。例えば、ある天体までの距離が知りたい時、「見かけの明るさ」と「絶対等級」の2つが分かれば、距離を知ることができます。

この記事のテーマ「宇宙での距離測定」でしたね。つまり、宇宙での距離を測定するためには、天体の「見かけの明るさ」と「絶対等級」が分かればよいのです。そして、「見かけの明るさ」は地球上で我々が観測する明るさなので、「絶対等級」さえ分かれば、距離を測定することができます。

ということで、次の疑問は「どうやって、絶対等級を測定するか?」です。我々が、絶対等級を知りたい星をつまんで10pcの位置に持ってくることができるのなら、絶対等級の測定は簡単にできるのですが、残念ながらそんなことはできないので、何とか別の方法を用いて、星の絶対等級を測定しないといけません。

そこで重要になるのが、最初に上げた2つ目のキーワード「変光星」です。変光星とは、明るさが変化する恒星の総称のことです。

明るさが変化する恒星の総称。変光の原因によっていくつかに分類される。星自身が膨張したり収縮したりすることで変光する脈動変光星、フレア活動によるフレア星、爆発的な現象による激変星、星の周囲の現象に関連するTタウリ型星等がある。連星系において、星が周期的に隠されることによって変光するものは、食変光星と呼ばれる。

https://astro-dic.jp/variable-star/

さて、この変光星の中でも脈動変光星の一種である「セファイド変光星」は明るさの変化の周期と見かけの明るさの間に関係があることが分かっています。下の図に「光度曲線(明るさの時間変化)」と「大小マゼラン星雲中のセファイド型変光星の周期と見かけの明るさ」の関係を示しました。ご覧いただければ分かる通り、確かに変光周期と見かけの明るさの間にはきれいな直線関係が成り立っています。この関係はリービットによって1912年に報告されました。

セファイド型変光星の周期と見かけの明るさの関係

ここで、勘の良い方は「あれ?変光星の周期と見かけの明るさに関係がある事が分かっても、絶対等級は分からないのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。その通りです。しかし、1913年、ヘルツシュプルング(HR図のHの人)は天の川銀河内にあるいくつかのセファイドの距離を年周視差を用いて測定しました。先程、述べた通り、「見かけの明るさ」「絶対等級」「距離」のうち、2つが分かると残りの一つが分かるので、ヘルツシュプルングの観測により、天の川銀河のセファイドの「見かけの明るさ」「距離」を知ることができたので、そこから「絶対等級」を知ることができたわけです。この観測成果を用いて、「周期−見かけの明るさ」を較正することで、我々は「周期−絶対等級」の関係を知ることができる様になったのです。

すなわち、我々はセファイド型変光星の変光周期を測定さえすれば、絶対等級を知ることができ、先程の数式を用いることでそのセファイド型変光星の距離を測定することが可能になるのです。セファイド型変光星を用いた距離測定では、数十Mpc(約数千万光年)の天体の距離まで測定されています。

さて、ここまでの話で一つ重要な視点を述べておきます。前回、紹介した年周視差ではせいぜい数十kpc程度の距離までしか測定できませんでした。しかし、今回紹介した通り、数十kpc内にある天の川銀河のセファイド型変光星を観測し、それをセファイド型変光星の「変光周期−見かけの明るさ」の関係と併せて用いることで、数十Mpc程度の天体の距離測定も可能になりました。つまり、あたかもはしごをつないでいくかのように、宇宙でより遠くの距離測定が可能になったわけです。このことを指して、異なる手法を併せて、宇宙にて測定できる距離を伸ばしていくことを「宇宙の距離はしご」と呼んだりします。

次回は、超新星を用いてさらに遠くの距離を測定する方法を紹介します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?