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星降る夜の町

僕の産まれた町、もとい村は明治だか大正の時代に隕石が降ってきたことで有名です。
山道をずーっと進むとその孔が残ったままの公園があり、さらに進むと天体観測ができる巨大望遠鏡とプラネタリウムが併設された施設があります。
そしてその施設の目の前には巨大な湖があり、そこには龍が住んでいるとされる龍神伝説が残っています。
夏には龍神の巫女と神聖な御神水を携え、太鼓を鳴らし、ねじり鉢巻をした男たちを筆頭に、小中学生一行がその山のてっぺんから降った先の中学校まで御神輿を行います。
僕も毎年参加していました。点在する各部落を訪れると、村の女傑方がおにぎりや漬物や甘い羊羹を振る舞ってくれました。 
そこで僕たち悪ガキが御神酒の日本酒を口に含み、一斉に噴き出す姿を年配の方々に爆笑されたのも良い思い出です。当時は馬鹿なことをしたと同級生と笑いあったことも覚えています。
それが終わると、秋にはあたり一面の田んぼの稲穂がこうべを垂らし、刈り取りを待つばかりの景色が広がります。
赤とんぼと稲穂がこれでもかと視界に入るあの暖かな景色は、どこまでいっても僕の心象に存在し続け、僕を肯定してくれるでしょう。
9月の一週、二週目には刈り取り、乾燥、脱穀を終えた新米が出来上がります。
巷では現代の米騒動だとかで騒いでいるようですが、昨年、フェーン現象や高温障害の影響で収穫量が低下したことから新米ができるまでのほんの一時期供給が間に合わないだけで、あと一週間もすれば皆さんの最寄りのスーパーにもいつものように山積みの米俵が配備されるはずです。
ちなみに僕の家の倉庫にはまだ1ダースほど余っている状態なのでどうしてもという方にはお譲りします。
やがて雪おろしと呼ばれる雷と共に冬がやってきます。一夜で田畑が覆い尽くされ、一変した景色は、須くが無に帰したような不思議な感覚を生じさせます。
この時期の子供たちは豪雪による休校の連絡を心待ちにしていますが、先人達の知恵と経験がそれを許しません。
斯く言う僕もそんな子供たちと同じかそれ以上に明日の休校を願い、眠りについていました。
冬は憂鬱でした、そして毎晩怖くもありました。
僕は学校から一番遠い村の外れの部落に住んでいるため、雪が降った日には早起きをし、眠い目を擦りながら長靴で足元の悪い中、長距離を歩くと学校に着く頃にはヘトヘトで授業どころではありませんでした。
雪が降る前は鍵付きのロッカーにしまっておく上着ですが、この時期は、登校だけでびちゃびちゃなるので、上着を乾かす専用の温かい部屋があり、朝その部屋で何度寝てしまおうと考えたことか分かりません。

ある晩、二階の自室で、石油ストーブの熱がこもった空気の換気のために窓を開け、布団にくるまりながら、これでもかと降り続ける雪を眺めていました。
積もった雪は大人の身長をゆうに超えています。
今日も早起きをしたため、眠気は限界を迎えていました。
とにかくいっぱい寝たかった。
ふかふかのベッドに体を預けて。
そのとき、

どん

と鈍くて大きな音が聞こえた気がします。
屋根に積もった雪が勢いよく落ちたのでしょう。
僕はそんな音慣れっこなのでいちいち反応していられませんでした。
途切れゆく視界の中でなぜだか夜空一面の星空が見えた気がしました。


2.7m/s→70Kg→0
1m/s→40Kg→0

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