恋人が有っても無くても有無同然
仏典の言葉でこういう、示唆にとんだ、深い言葉があった。
「有無同然」、あってもなくても同じく然り、と読む。
ないときは、ないときで、物足りない、満たされないけれども、
求めて手に入れて、ある状態になっても、同じく然り、前と同じように、
不安や心配はなくならない、ということ。
自分が、物足りない、つまらない、晴れ晴れとしない、うんざりしているのは、
こういうものがないからだ、あれがあったら、これがあったらと、
色々なものをみんなもとめている。
そのために、時には、
そこまでしなくても、
そんなにまでして、
という涙ぐましい努力をする。
だけども、手に入れた後も、やっぱり、
心配や不安がなくならないのですよ、
ということです。
たとえば、恋人。
恋人がいないときには、なんて、寂しい人生だ。
誰か自分をわかってくれる人がないか?
と思う。
そして、クラスの気に入った人をひそかに思い続ける。
いろいろ、絶対にあり得ないシチュエーションのことを想像する。
たとえば、今日は曇り空だったとすると、
雨がふってきたら、あの人は傘をもってきてなくて、困っている。
そこで私は、さっと傘を差し出す。
すると、彼女は、
小さな声で「ありがとう」と言って、傘に入る。
二人は寄り添って、はじめは無言で20メートルくらい歩く。
二人だけの世界ができあがって・・・。
一人でどきどきしてしまう。
たいてい、そういう時、クラスの一番人気のない、
ジャイ子の顔を見て、はっと我に返って、現実に引き戻される。
ところが、一生に一回くらい、
そういうシチュエーション通りのときがやってくる。
やったー。
あこがれのあの子が玄関で、一人傘がなくって困っている。
ちょっと恥ずかしいけれども、一世一代の見せ場所だ、と思って、
おもむろに折り畳みのコウモリ傘を鞄から出す。
侍で言ったら、鞘から自分の日本刀を抜くような武者震いで、
ほつれ気味、さび付き気味のこうもり傘をだす。
彼女に近づいて行く。
ボルテージが上がって、鼓動が早くなり、胸が高鳴る。
その瞬間、聞き慣れた声がする。
振り返れば、やっぱりジャイ子。
しかも、ジャイ子は、いかにもっていう、
大っきな、赤い水玉のジャンプ傘をもっている。
結果的に、ジャイ子とあこがれの女の子が、一緒にかえって行く。
もう台無し。
なんてことよくなるよね。
そして、他のカップルみると、自分が妙に、つまらない人間ように、思えてくる。
惨めになってくる。
修学旅行のときは、最悪。
どんどんカップルができる。
一生彼女できずに、結婚もできないのではないかと、ますます不安になってくる。
そしてため息「あ〜あ、彼女ほしいなあ」。
ところが彼女ができたらどうか?
はじめはうれしい、楽しい、スキップしたい気持ち。
いわゆる有頂天。
しかし、それも永くは続かない。
今度は、恋人がいることが種となって、色々と不安になる。
いつまでの続かないのではないか、という不安。
いつも夜になると、電話をする二人。
1時間も2時間も話をしている。
そんなんだったら、会ったらいいのに、と思う。
ところが、毎晩電話しているのに、その日だけつながらない。
留守番電話になる。
そこで、吹き込む。
「電話してね」と。
しばらく待っても電話来ない。
また電話してみる。
ところがまた留守番電話。
ますます不安になる。
どうしてでないの?
ここから疑心暗鬼が始まる。
ひょっとして、他の男とあっているのかも?いや、そ
んなはずはない、でも・・・。
そして、落ち着かなくなる。
そんなこんなで、次の日、学校で、彼女が楽しそうにみんなで話している。
他の男と話している。
それだけで、気持ちがよくない。
かつ、どう考えても、その男の方が自分よりもかっこよかったりするともう大変。
全然落ち着かない。
でも、男がそんな嫉妬していると思われるのがいやだから
それをみんなに気付かれないようにするが、イライラする。
他の男と話しながら笑っている!?
「何ぃ」僕以外の奴と話して笑うなよ、
と思う。
しかも、自分といるときよりも楽しそう。
そうなると、心が暗くなる。
勉強も上の空になる。
彼女に振り回されたくない、振り回されたくないと、
心では思うのだけれども、思いっきり振り回される。
それでいて、人から、「上手くいっている?」って聞かれると、
強がりを見せるけれども、心の中は、不安いっぱいだったりする。
そういえば、浜崎あゆみの歌に「アピアーズ」という歌がある。
これは「見せかけ」という意味なのですが、その中にこんな歌詞があります。
「恋人たちがとても幸せそうに手をつないで歩いているかもね
まるですべての事が上手くいっているかのように、見えるよね、
本当は二人しか見えない」
見せかけで内心は不安、心配でいっぱいなんだ、ということ。
こんな気持ちになるくらいだったら、
いっそ、つきあわなかったらよかった、と思えることもある。
一人なら、そんな心配する必要もなかったのに・・・って思う。
でも、それなら、一人の方が良いのかというと、それはそれで寂しい。
これも「有無同然」です。有無同然については、お金持ちや美人は幸せ?に詳しく書いてありました。
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