「おふたりの人生を、一緒に愛する」という仕事──小金渕夏海
ウェディングプランナーとして、今まで数多くの新郎新婦のハレの日をプロデュースしてきた小金渕夏海。
結婚式という、多くの人が(たとえ自身で式を挙げたことがなくても)雛形を想像できる空間を、まっさらな画用紙を広げるところから始めるように、0から新郎新婦と向き合い、1つずつ色を重ねて創り上げていく。それが彼女のプロデュースする、結婚式だ。
「独立をした今、ウェディングプランナーとして大事にしていること貫いてきたこと、お客さまとの向き合い方について改めてnoteに残したい」という彼女からの想いを受けて、何度も取材を重ね、この記事を執筆させていただいた。
【Interview, Writing:ほしゆき】
一番大切なのは、
ふたりで創った景色であること
「ウェディングプランナーです」と言うと、新郎新婦おふたりが式で何をしたいか、どういう式にしたいかをヒヤリングして、そのオーダーに沿って私が式の中身をつくる……というイメージを持たれるかもしれません。けれど私の役割はリードをすることではなくて、むしろおふたりの選択に余白を持たせることだと思っています。
たとえば、「両親にすごく愛してもらったから、式では心から感謝していることを伝えたい」と話してくださった新郎さんに、「新郎さんだってバージンロードは両親と3人で歩いてもいいんだよ」と伝えたことがありました。
新婦さんが、お父さんと一緒に歩くバージンロードだけが正解じゃない。決して“そうしなきゃいけないこと”ではないと、私は思っています。新郎さんとお父さんが肩を組んで入場してもいいし、新婦さんが兄弟と腕を組んで歩いてもいい。
昔から、ドラマや映画で描写される結婚式の在り方はどれもすごく似ていて、「こうするのが普通だ」「こうしなきゃいけないものだ」と感じている方も多いかもしれません。けれど唯一無二のふたりのハレの日に、一番大切なのはおふたり自身がどうしたいかです。
だからこそ、「お父さんと一緒にバージンロードを歩くこともできるし、他にもこんな方法があるので、ちょっと考えてみてください」という提案をしました。
ラグビー選手の新郎さんの結婚式では、ラグビーボールにゲストの皆さんから婚姻承認のサインをいただいたことがありました。仲間を信じて1つのボールを託し、みんなで繋いでトライするラグビーというスポーツは、おふたりの生き方を象徴するもの。
「皆さんのサイン入りボールを、最後は誰かにパスをしてもらいましょう。誰からパスを受け取りたいか、おふたりで決めてほしいです」と伝えると、新郎さんは迷わず「新婦のお父さんからパスしてもらいたい」と。
当日を迎えるまで、新婦のお父様はひっそりとパスの練習をしたそうです。
結びの日、涙を堪えながらパスを贈るお父様の表情からは、新婦さんがどれほどに愛されているのかが伝わってきましたし、受け取る新郎さんの表情からは、家族が積み重ねた愛情や時間を未来へ繋げる強い意志を感じました。
「こんな式にしましょう」と決めて私が進めていくのではなく、おふたりが選択し、話し合って、決めていくというプロセスを大切にしたい。
たとえ最終的に同じ景色が広がっていたとしても、その景色を見たおふたりが「小金渕さんの案に賛成してよかった」と感じるのと、「自分たちで選んで、話し合って悩んで出した結果、この景色が生まれたんだ」と感じるのとでは全く意味が違います。
私は新郎新婦のおふたりが、結びの日・その瞬間さえ幸せで満たされていたらいいと思っているのではなくて、おふたりがこれから歩んでいく道の先でも「あの結婚式を創れたんだから、きっと大丈夫」「もっともっと挑戦できるね」と、思える式にしたいと思っています。
挑戦のない人生はない。生きていたら、怖かったり、逃げたくなることと対峙する瞬間が訪れる。どんなに小さくても、誰もが日々、挑戦しているはず。
だからこそ何度でも思い出して、ずっと背中を押せるように。おふたり自身が手を取り合って一緒に創ったという深い実感が、結婚式にずっと意味を持たせてくれるから。
そして私は、おふたりにとっての絶対的な第三者でありたい。血縁関係もなく、旧友でもなかったけれど、結婚式という節目を通しておふたりの人生を深く知り、性格や関係性を理解し、常に味方でいてくれる。「なんか心強いな」と、思ってもらえるような存在でいたいと思っています。
アイデアだけで「唯一無二」は生まれない
おふたりとの打ち合わせで、「こんなことをしたい」「こういう式にしたい」という希望を教えていただいたら、それがどんな意味を持っているのか。根底にどんな思いがあるのか。じっくり向き合って、時には深いところまでおふたりに問いかけて、ずっと考えています。どんな些細なことでも溢さないように。
思い出の曲を教えていただけたら、ずっとその曲を聴いてみたり、なぜその曲が生まれたのかを調べてみたり。式に参列されるおふたりの友人に事前に会ってお話がしたくて、ダンスのクルーをしている友人のお店に行ったり、出店している音楽イベントに参加したりもしました。
おふたりと対面している時間以外に、私が何をしているかなんて知らなくていい。ただ、教えてもらったことを知らないままの自分でいたくないんです。「あの曲聴きましたよ」「ご友人のイベント参加しましたよ」と一言、嘘偽りなくお伝えできたらいい。
この曲を聴きながらどんなことを思ったんだろうとか、おふたりからの、少しのお裾分けを実際に辿ってみることで、見えてくるものがたくさんある。
式の当日まで打ち合わせできる回数も、準備できる期間も限られています。そのなかで、どこまで心を近づけられるか。出来ることは全部したい。そのうえで私からの提案を、おふたりの選択肢のひとつとして、種を蒔くようにお渡しできたらいい。
ずっと、そう思っています。
「こうしたい」という言葉を、ただ受け取ってその通りに進めるだけではなく、言葉の奥にちゃんと触れて理解したい。
式を形にしていく過程で、たくさんのアイデアがあることはすごく大切なことだけれど、アイデアはいつか底を尽きるし、演出や手札に頼る姿勢でいたら一番大切なものを見失ってしまう。
コンテンツを当て込んでいくような予定調和で、唯一無二の結婚式は創れない。
──発端はすべて愛情である
これが、お客さまに何かを提案するとき、式を形づくるときに、一貫して私の軸にある思いです。
おふたりの人生を温め、愛すること
プランナーという仕事をしながら日々思っているのは、私ひとりだけで成し遂げられることは本当に少ない、ということです。新郎新婦のおふたり、司会者、フローリスト、カメラマン、ヘアメイク、映像クリエイター、音響、照明、ドレスアテンド……チームの誰かひとりでも欠けていたら生まれなかった景色。結婚式は、そういう瞬間の連続です。
だからこそ温かいチームの在り方が、ウェディングにはすごく大切で。みんなでおふたりの人生を温め、愛していくチームにするために、どんなクリエイターさんに依頼させていただくのか、どんな言葉でクリエイターさんをおふたりに紹介するのか、何度経験しても毎回難しいなと思います。
お客さまだからとか、クリエイターだからとか、立場や役割のもとで対話をするのではなくて、ひとりの人間として共に心を向けて、結びの日を創っていきたい。
結婚式が与えてくれるパワーは、本当にすごいものです。
新郎新婦のおふたりが、嘘偽りなく私にお話してくれたことは、きっと誰かの人生の後押しをしてくれる。久しぶりに両親に連絡をしてみようとか、大切な人に感謝の言葉を伝えてみようとか、そばにいてくれる人たちをもっと愛おしく思うとか。
関わってくれた人たちが、ふたりの人生を知るだけで幸せになれる。結婚式にはそんなパワーがあるから、チームみんなで一緒に信じて、温めて、愛して、少しも溢すことなく結びの日に閉じ込めたい。
ウェディングプランナーは、本当に贅沢な仕事だなと思います。おふたりの人生が詰まった、こんなに大切な日に触れさせていただいて。ひとつとして、同じ式はない。
会社という傘を抜けて、フリープランナーになってからも変わらずに、私に出来ることを妥協せずに、新郎新婦おふたりの願いを一番叶えられる方法を探し続けていきたいと思います。
おふたり自身が決めて創っていく結婚式を、チームで温めて、一緒に愛していきます。
Voice:小金渕夏海
Contact :https://instagram.com/buchi_produce