レシートの記憶が永遠のアートに。アーティストVIKIさん

 ある美容メーカーが美容師さんとのコミュニケーションツールとして贅沢なフリーマガジンを出していた。残念ながら、廃刊になったけれど。私はそこでさまざまなアーティストやアスリートへのインタビューを担当していた。

 アーティストのVIKI(ヴィキ)さんにインタビューしたのは、2020年のコロナ禍が始まる前だ。ギャラリーでキュレターの役割をしている友人が「すごい作家を見つけた」と連絡をくれて、個展を観に行ったのが、彼との“初めまして”だった。

 美少女のような美少年というか、ジェンダーレスな星から来たような青年で、まだ藝大の先端芸術表現科の学生だった。その前はバンド活動やアイドル、モデルなどの活動をしていたとのこと。その当時、彼の絵を観たある人から「芸大に行ったらいいんじゃない?」と言われ、翌年受験して合格したという、なんともあらまー!なお話なのだ。

 VIKIさんは、感熱紙であるレシートをつなぎ合わせて、アイロンなどで熱を加えて絵を描いていく独特の手法で、作品を創り上げる。壁一面に貼られたレシートのキャンバスに、下絵なしで、熱によって絵を浮き上がらせていく。いつまでも見飽きないライブパフォーマンスだ。

 VIKIさんにはたくさんのファンからレシートが送られてくる。そのレシートの1枚1枚を読み込むという。ある女性は自分のコンビニランチのレシートを作品の中に見つけて、「自分がつまらないと感じていた日常が、価値あるものに思えてきた」とツィートしたという。

 私がつけたコピーは「ささくれた日常をいつくしむ」。VIKIさんのレシートアートは、「色褪せた記憶をよみがえらせ、ないがしろにしている日常の大切さに気づかせてくれる」と書いた。我ながら、いいね。

 その日の撮影は、VIKIさんが何百枚ものレシートを長くつなぎ合わせて、細く切って髪のように作ったウィッグを被り、風をなびかせてシューティングした。キャッチは「レシートウィッグ。渦巻くのは、時間と記憶といのち」

 大学ではいくつも賞を受賞し、卒展では広いブースを獲得して、異彩を放っていた。現在はさらに進化を遂げて、VIKIさん独自の世界を拓いている。私はインタビューしたことのある、推しのアーティストはずっとその後も追いかける。

 先日のギャラリー自由が丘での個展では、たまたま連れて行ったジャズ友が小さな作品を気に入って購入。「人生で初めて買った絵が届いたよ」と、白い壁に掛けられた写真が友人から届いた。VIKIさんの絵はギャラリーで観た時とはなんだか違うニュアンスで、幸せなオーラを放っていた。

 


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