「 未定 」#56

 デルタは異邦人であるこの僕にシーレの街をよく案内してくれた。宿屋、武器屋、雑貨店など様々な場所について説明をしてくれた。この街に出入りする冒険者や人物について彼女は色々と教えてくれたんだ。陽気だが凄腕の傭兵や精神をヒーリングする僧侶、この街で店をいくつか経営している女性の有力者などなど。

僕らふたりは街の広場で話し合っていた。
「自分で話をして自分の目で確かめて、冒険に誘うなり交流するなりすればいいと思うわ。あなたの感覚でね」とデルタは言った。

 彼女は戦士特有の威圧感はあるもののとても親切で優しかった。各地を素性を隠しながら旅をして厄介者扱いを受けていた自分としては、彼女の優しさは、日が暮れた旅路でぽつんと宿屋の灯りをやっと目にした時のように
心に安心と暖かさを感じさせてくれたのだった。

デルタ「なんでそんなに親切にしてくれるのかって?私も以前に頼る人がいなくて酷く嫌がらせをされたりして困った時があってね、その時の自分を思い出すとなんか助けてあげたくなるのよ。それにあなたの風貌から悪党には見えない感じだしね。え〜と、私はこれからいくつかやらなきゃならない仕事があってね。その間にあなたは冒険のパートナーを探したほうがいいわ。あたしの嫌いなやつとか連れてこなければ一緒に冒険にでも出ましょうよ。それじゃあね、またあの居酒屋で会いましょう」

イズコ「ありがとう、親切な戦士さん!」
デルタは背を向けて去りながら手を上げて二本指を軽く振って返事を返した。

 彼女のアドバイス通り、ここで仕事をして収入を得るためには友人が必要に違いない。彼女の話でも聞いていた傭兵をみたいとイズコは感じていた。どうやら、剣術を競い合う練習場のような場所がこの街にはあるということなので、そこに向かうことにした。

 イズコは広場から店が連なる通りを抜け、階段を登り景色が見渡せる場所に到着した。ここはどうやら戦闘の練習場のような場所のようだ。木製の剣を持ち二人が一組となって数組が激しく剣を交わし合っている。イズコはしばらくそれらを食い入るように眺めていた。壁際には人の姿をもした人形や丸い木の的があり弓矢が数本刺さっていた。剣術の練習の中で一際鋭い剣さばきでトリッキーな動きをしている剣士が目についた。もしかして彼がデルタの話に出てきた傭兵であろうか。

 そんなに大柄でもないその素早い傭兵は、力を抜いた緩急をつける動きでわざと自分に隙を作り動きを止めたかと思うと急に予測不能の素早い動きをして油断した相手の隙をつき、相手の木製の剣を腕から叩き落として相手の首元にその切っ先を突きつけて勝ち誇って雄叫びを上げていた。
イズコは関心をしながらそれらを眺めていた。


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