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怪談 おじいちゃんのズボン

これは、私の母から聞いたお話です。


私の母方の祖父は、肝臓を患っており、当初は、肝炎と診断されていたそうなのですが、症状の進行とともに、腹水でお腹がぱんぱんに膨れて、恐らく肝癌にまでなっていたのではないか、と聞いています。


私が生まれる頃にはもう祖父は亡くなっていたので、実際に当時の様子を見たわけでは無いのですが、
喉が乾くのに水を飲むと死ぬ、
と医者から言われて、水を飲むことができず、
自力で起きることもできず、
トイレに行くこともできず、それはそれは苦しい闘病生活だったそうです。

 家にいる間、祖母が懸命に看病していたそうですが、残酷にも状態は悪化していきます。
 長く苦しい、入院生活が始まりました。

 母ら兄弟は、仕事や結婚で地元を離れていたため、頻繁に様子を見に来ることができませんでした。

 そんなある日、
母の夢の中に、祖父が出てきたのだそうです。

 夢の中の祖父は、病室に居たのですが、
その病室の窓からは、現実ではあり得ないほど、陽の光がいっぱいに差し込んでいて、とても明るかったのだそうです。
その光を背中に、ベッドに腰掛けた祖父は、以前の元気な頃の姿で、母の方を向いて、
にっこりと笑って、こう言ったそうです。

ーやっと 家帰れんねん。

その言葉を聞き、母は、
「あ…え…」
と状況を捉えられずに呆然としながらも、なぜか祖父の顔ではなく、ズボンに目が奪われて、そらせなくなってしまったそうです。
そのズボンは、見たことのないもので、英語のプリントとパッチワークが施されていたそうです。

夢を見たその翌朝。
病院から、
祖父が亡くなったと連絡があったそうです。

それからしばらくして

母から祖母に、
あの夢の話を伝えたところ、

「それ、お父さんに履いてもらおう思ってつくろうたズボンやわ。
おかあちゃん、病院からもう危ないって聞いて、おかしなってもうて、よう持っていけへんかってんけど…。」

と、言って、祖母が部屋から出してきたそれは、
母が夢で見たズボン、そのものだったそうです。

母も祖父も存在すら知らないはずのズボン。祖母が繕ってくれたそのズボンを履いて、
天国に行くよ、と。

自分が夢に出て姿を見せたら、祖母が泣いてしまうと思って、
母の夢に出て、
それを報告してくれたのでしょうか。

そんな、怖いというよりも、不思議なお話を、聞かせてもらいました。

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