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情報のタテ・ヨコ・オク思考で物事を掴む 〜「問い続ける力」を読んで〜

 最初に読んだのは2019年の中頃だったと思う。この本との偶然の出会いは、私の人生にとって1つのターニングポイントになった。

 私は、研修講師として「人に考えてもらう」ことを生業としてるが、それまで「考えるとは何か?」を深く考えることはなかった。だが、本書が私にその問いと向き合わせ、自分の思考を変えるきっかけを与えてくれた。ためにもなるが、とても好きな本になった。

 当時、チームビルディングやリーダーシップといったテーマで、企業研修の講師として登壇していたが、1つ悩んでいたことがあった。研修テーマは同じでも、研修プログラム毎に異なるアプローチ方法で受講者に関わることが求められており、その求められることに振り回されていた。結局どのアプローチでも受講生からは評価が得られていたので、問題にあがることはなかったが、「どのアプローチが本当は最適なのか」がわからなかったのだ。

その課題解決のヒントが、本書のキーワードである「とは派」だった。
とは派とは何か。

「考える対象の基本原理から考える人」であり、
「HowではなくWhatから考える人」のこと

だ。

 探究対象となる概念の定義から考え始めるということである。これが重要なのは、定義によってどんな手法が効果的なのかは変化するからだ。つまり、私は、アプローチ方法にばかり目を向けていて、定義を曖昧にしてしまっていたのだ。だから、私は、「チームビルディングとは何か」「リーダーシップとは何か」を明確にするところから考える必要があったのだと気づいた。

 アインシュタインは物理の根本原理を変えた。(相対性理論については、詳しくないが、そういうものだと認識している。)だから、定義が一般的な見方と異なり、かつその正しさが証明できる場合には、世の中にインパクトを与えることができる。それは「イシューからはじめよ」のイシューの定義にも近いので、言っていることは同じなのだろう。

 著者は、予防医学者の石川氏だ。「人がよりよく生きるとは何か?」という問いを持ち、行動科学、計算創造学など分野を横断して研究されている、とてもご活躍されている研究者だ。石川氏は、東大、ハーバード大学大学院という超一流の経歴を持つ。しかし、ご本人は、30歳過ぎても「では派」だったと言う。だから「とは派」に関心を持ち、「正しい問いの立て方」を探究してきている。本書は、その探究の一つとして、「とは派」の一流の方々へのインタビュー形式で、一流の「とは派」の思考を紐解いている。この中に「とは派」のように考えるヒントがたくさん詰まっている。登場する方々の話はとても面白い。

・「高校生で微分方程式の概念まで自力で辿り着いた」という長沼伸一郎氏
・「今は解釈がない時代だ」という松嶋啓介氏
など、計9人へのインタビュー内容は、示唆に富む話が多い。

以下、興味を持ったキーワードをメモとして残す。

・問いを解けるレベルに細分化する
・定義を数式で表す
・例外にこそ本質が現れる
・考えるために制約をつくるべき
・大きな視点と小さなディテール
・物事には共通のメカニズムがある
・守備範囲の広さこそが超一流の証
・ロジックを重ねていくと、時に直観を超えた不思議に出会う

これらのキーワードに対しては、私が実感を持って語れることはまだ少ない。

 ただ、最近「とは派」で考えていくヒントを掴んだ。私はいま「編集」を学んでいる。「経験からの学びを概念化する」という思考法のヒントを求めて学び始めたのだが、これがとても面白い。情報を編集することは、考えを深める上でとても本質的なことだと気づいた。そして、「とは派」の一流の方々の思考に、編集的に考えることは近い、と理解した。

 情報には、タテ・ヨコ・オクがある。タテは時間、ヨコは場所、オクは時流のことだ。この3つの視点が物事を深く考えていく際には重要となる。

つまり、

歴史的な流れを掴み、同時期の様々な考え方に触れ、その背景にある宗教・文化・思想などの観点から時流を捉えた上で、新しい関係性を発見していく。

 このような思考が、一流の「とは派」の人が実戦している思考なのだ。この3つの文脈から1つの物事を考えていくことで、「とは派」に近づいていけるのではないかといま考えている。


最後に。

 私もようやく専門分野以外の分野を越境して学ぶ必要性を理解し、学び始めた。そして、学び方もだいぶ掴んできた。分野を越境し、統合することの意味や方法論も理解が深まってきている。この感覚が、リベラルアーツ(教養)を深めていく上でも重要だと思う。

 私がこれまで探究していた問いは
「どのようにファシリテーションをすれば経験からの学びが深まるか?」
「どのように観察すると人やチームの本質的な課題を発見できるか?」
「どのようにすれば効果的な体験がデザインできるか?」
だったが、ここからはHowではなく、Whatに戻り、「経験学習とは何か?」というところから考えていきたい。

 そして、最近は、編集を学び、編集と経験学習の類似点を発見し、

経験学習をデザインするとは、経験に不足を埋め込む編集である

と言えるのではないかと仮説を立てた。このあたりを深めるところから今後探究していき、アウトプットとしてnoteに書いていこうと思う。

今後は、自分の編集力を駆使して、様々な専門分野を越境し、少しずつ自分の専門領域である人材開発や組織開発の領域を紐解いていきたい。



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