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図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法04

目まぐるしく変化する世の中では効率が重視され、 じっくり時間をかけて考え、試行錯誤するプロセスは「無駄」と思われがちかもしれません。このような時代において、図画工作や美術の学びはどうあるべきなのでしょうか。 YouTubeチャンネル「無駄づくり」で注目を集める藤原麻里菜さんの発想法についてのお話をベースとして、小学校で教える山内佑輔先生、中学校で教える小西悟士先生にはそれぞれの実践例を交えながら、考えの深め方や学びのきっかけ作りなどについて語り合っていただきました。最終章です!

01~03までの記事はこちらからご覧いただけます。
「図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法_01」


「図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法_02」

「図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法_03」


Q4 子どもたちの「やってみたい」を 引き出すためにできることは?

外部の人とつながることで 「授業」の枠を超えていく

藤原麻里菜さん(以下、藤原):私は「無駄づくり」に没頭しているときは、 自意識がなくなって、自分が自分ではなくなるような感覚があります。私の場合、「無駄づくり」に 没頭するきっかけは、言葉から膨らませたアイデアだったり、「このマシーンはどう回転できるか な?」といった動きへの興味だったりするんですが、先生方は子どもたちが夢中になれるきっかけをどうやって作っているんですか?

山内佑輔先生(以下、山内):子どもたちにとっての「考える」きっかけは、 真剣に遊ぶことだと思うんです。つまらない遊びを考えたくはないから、もっと楽しくしたいという 根源的な欲求が生まれる。小学生だと、ものづくりの途中では、何を作っているのかを子ども自身がまだわかっていないこともよくあります。例えば、目の前に新聞紙があって、ビリビリと手で裂いてみるのが楽しくて続けていくうちに、「これは “のれん”になりそうだな」と思いつく、という感じなんですね。それを踏まえると、教師は「課題」を与えるというより、子どもたちが創作意欲をかきたてられるような「材料」「ツール」「環境」を整えることが大切だと思います。

小西悟士先生(以下、小西):僕は学びを学校だけに閉じないことを意識していて、地域のお店に協力してもらいながら、生徒たちの成果物を学外でも展示しています。授業にも外部からさまざまな専門家を招くことが多く、僕がしているのは全体の構成を考えるディレクター的な役割ですね。

山内:僕も教科横断型のプロジェクトなどでは外部の方々の力を借りることが多いです。外部の方々と出会うことで子どもたちの学びが深まりますし、僕自身も刺激をもらえて、それが新しい授業の発想につながっているように思います。 子どもたちの「やってみたい」を引き出すためにできることは?

小西:図工や美術の授業を通して、子どもたちが「こんな大人もいるんだ」と思えるような、さまざまな大人と出会える機会をつくれるといいですよね。

山内:できることなら、藤原さんに授業で無駄マシーンをつくってほしい! 僕が授業をするのだと、どうしても「先生」と「生徒」っていう関係性がで きてしまうから。そういう意味では、僕が勤務して いるVIVISTOP NITOBEは新しい取り組みをしている場だといえると思います。学校の図工室とも少し違っていて、小学生から高校生までの子どもたち、先生、ものづくりの専門家といった、年齢も 立場もさまざまな人が集まるなかで「何してるの?」 「ちょっと教えて」と自然と会話が広がっていく。こういう環境を整えることも、子どもたちの「やって みたい」を引き出す方法の一つだと思います。 「こうしないと」という固定観念を取り払いたい。

藤原:先生方のお話を伺って、図工や美術の先生は、無駄なものや意味のないものを肯定しながら、いろいろなことに縛られがちな価値観にゆとりを持たせることができる存在なんだなと感じました。

山内:そうおっしゃっていただけるとうれしいです ね。今日は藤原さんの「無駄づくり」のお話を伺えて良かったです。小学生の子どもたちの作品は、 それこそ家に持って帰った途端にほとんどは「無駄なもの」になってしまうんですよ。でも、自分で描いてみる、作ってみるという活動自体に意味があるわけですから、ものづくりの発想も授業のあり方も、もっと自由でかまわないんだろうなという気がします。

小西:「こうしないといけない」という固定観念を取り払うと、子どもも大人もものづくりを楽しむことができて、そこから新しい発想が生まれてくる のかもしれませんね。藤原さんの「無駄づくり」を 見て、創作意欲がかきたてられる子どもたちも多いと思います。これからもどんな無駄を生み出してくださるのか、楽しみにしています!

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Q4 子どもたちの「やってみたい」を 引き出すためにできることは?

A:(山内)創作意欲をかきたてる材料やツール、環境を整えることが大切。

A:(小西)自分一人だけで授業をしない。学びを学校だけに閉じない。

藤原麻里菜さん
1993年生まれ。
頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコ ンテンツを広げている。2016年、Google社主催の「YouTube NextUpに入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展 ―無中生有的沒有用部屋in台北」を開催、25,000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者 部門2019年度」採択。著書に『考える術』(ダイヤモンド社)、『無駄なことを続けるために』(ヨシモトブックス)、『無駄な マシーンを発明しよう!~独創性を育むはじめてのエンジニアリング~』(技術評論社)

藤原麻里菜 「無駄づくり」

山内佑輔先生
新渡戸文化学園 プロジェクトデザイナー・ VIVISTOP NITOBEチーフクルー 大学職員として数々のイベント等の企画を手がけたのち、 2014年に公立小学校の図工専科の教員に。ワークショップの手法を用いて、子どもたちのクリエイティビティを育む環境をつくり出し、実社会と学びをつなぐ授業を実践。 2020年4月から新渡戸文化学園へ移り、VIVITA JAPAN 株式会社と連携し、「教室や教科、学年などの枠をなくし、 教師も生徒も共につくり、共に学ぶ」ことができる場として VIVISTOP NITOBEを開設。新しい学びのあり方を模索しながら、授業や放課後の子どもたちの活動の拡張に取り組んでいる。SOZO.Ed副代表。

山内佑輔 「考現学研究中」

小西悟士先生
埼玉大学教育学部附属中学校
武蔵野美術大学 造形学部 空間演出デザイン学科 ファッションデザインコース卒業。同研究室の教務補助、 助手を経て、アパレル会社に勤務。さいたま市の公立中学校で美術教諭を務めたのち、現職。「地域に開かれた 美術教育」をコンセプトに、授業で制作した生徒作品を 地域のコーヒーショップで展示する取り組みを2011年より継続中。描くことやものづくりが苦手な生徒でも夢 中になって取り組める授業のデザインに取り組む。全国の小・中学校などの実践を紹介する「図工・美術の授業 展」の開催にも携わっている。

取材・文:安永美穂 撮影:大崎えりや(一部)
※この記事は、『BSSカタログ2022』の巻頭特集インタビューを一部加筆・修正・画像追加しています。


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