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図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法02

目まぐるしく変化する世の中では効率が重視され、 じっくり時間をかけて考え、試行錯誤するプロセスは「無駄」と思われがちかもしれません。このような時代において、図画工作や美術の学びはどうあるべきなのでしょうか。 YouTubeチャンネル「無駄づくり」で注目を集める藤原麻里菜さんの発想法についてのお話をベースとして、小学校で教える山内佑輔先生、中学校で教える小西悟士先生にはそれぞれの実践例を交えながら、考えの深め方や学びのきっかけ作りなどについて語り合っていただきました。

「図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法_01」はこちらです。


Q2 新しい発想につながる「考え方」を教えてください。 

違和感のある言葉を 組み合わせてみる


山内佑輔先生
(以下、山内):藤原さんが「無駄づくり」をするときも、こういう「言葉をくっつける」という手法をよく使うんですか?

藤原麻里菜さん(以下、藤原):そうですね。考えるきっかけをくれるのが「言葉」だと思うんです。例えば、「ごきげん」 と「時計」をくっつけて「ごきげん時計」という言葉を作ってみて、「朝、ごきげんな音で起こしてくれる時計なのかな」と無理やりにでも意味を持たせていくと、アイデアが浮かぶきっかけになります。「ノートペン」というように名詞同士を組み合わせる方法もありますが、「うるさいペン」「貧乏くさいペン」というように違和感のある修飾語をくっつけると、想像力がより膨らみます。あとは、「ごきげんなアプリ」「時計マシーン」というように、「アプリ」「マシーン」といった、どういう形でアウトプットするのかを示す言葉をつけることでアイデアが生まれることもあります。

小西悟士先生(以下、小西):なるほど。今回の「マスク」も楽しいアイデアが浮かんできそうなお題ですね。おふたりの答えは見ないようにして考えてみます。

小西:僕は見当がつかないまま描き始めちゃったんだけど、ここからどうやってマスクにしようかな……。

「さわれないマスク」


――数分経過――

山内:できました!

藤原:私もできました。

小西:えっ、ちょっと待って! ……じゃあ、こんな感じで(と描き足す)。

藤原:では、私から発表します。私が考えたのは「さわれないマスク」。さわろうとするとトゲトゲが出てきて、絶対にさわれないマスクです。

山内
:このマスクはどうやって外すの?

藤原:外せないです、さわれないので。

山内:それはなかなかハードですね(笑)。

藤原:山内先生が考えたのはどんなマスクで すか?

山内:「すこしだけとべるマスク」。このマスクをつけると、ふわっと少しだけ飛べるんです。 耳がちぎれるんじゃないかっていう心配もあるんだけど(笑)。小西先生のマスクは?

小西:「くしゃみを止めるマスク」。くしゃみが出そうになると、周囲のみんなの手が集まってきて押さえてくれるんです。

山内:うわっ、たくさんの手が描いてあるね。 何人くらい集まるの?

小西:その時々に応じて、2人かもしれないし、 もっと大勢かもしれない。

藤原:想像してみるとおもしろいですね。

「すこしだけとべるマスク」


手を動かすプロセスで 思考が深まる

山内:こうやってみると、同じ「マスク」を題材 にしてもアイデアは三者三様ですね。実は、僕も6年生の授業で同じような取り組みをしたことがあります。名詞と形容詞をカードに書いてもらって、それをランダムに組み合わせて言葉をつくり、造形につなげるという授業なんですが、何度もカードを引いて、たくさん制作する子もいれば、自分が引いた1つの言葉のイ メージをじっくり考え抜きたい子もいる。人それぞれの発想法やアイデアの深め方があるんだなと思いました。藤原さんは、今回のマスクのアイデアをどういうプロセスで考えたんですか?

藤原:私の場合は、今回に限らず普段の「無駄づくり」でも、まず言葉から浮かんだイメージ を自由に描いていきます。描いていくうちに、「これは現実的じゃないな」「これならできるかも」といった論理的な考え方ができるようになり、アイデアに収束していくことが多いです。

山内:僕も実際に描くうちに、アイデアが少し変わっていきました。最初は「空を飛べるマスク」を思いついたんですが、描いてみたらさすがに空高く飛ぶのは無理だなと思って、近くに地平線を描き足すことにしました。「すこ少しだけ(とべる)」というのは後から付け足したアイデアです。

小西:僕は「むずむずマスク」とか言葉で考えてみようとしたんですが、おもしろくないなと 思って、絵を描きながら考えました。言葉ではなく絵から生まれたアイデアです。思考法って、みんな違うんですね。

山内:このお題だと、きっと「○○なマスク「△△なマスク」というように、言葉だけいっぱい書く人もいるかもしれませんね。でも共通していえるのは、とりあえず手を動かしてみることで、論理的なアウトプットができるようになるということ。頭の中で思考を巡らせているだけでは、いいアイデアって浮かんでこないのかもしれません。

藤原:そうですね。私の「無駄づくり」でも、まず言葉からイメージを思い浮かべたら、設計図は描かずにとりあえず作ってみることが多いです。実際に作ってみることで、頭の中の妄想を論理的にアウトプットできるようになります。

小西:僕は授業に「造形実験(武蔵野美術大 学の三澤一実先生の実践に基づく、小学校の 「造形あそび」の中学生版にあたる取り組み)」を取り入れているんですが、生徒たちは遊んでいるように見えても、そのプロセスで実はすごく考えているんです。「まずアイデアスケッチを描いて次は制作」というように、教師が段取りしすぎないほうがおもしろいものができる気がします。ただ、今の生徒たちは、作る前から「間違えちゃいけない」という意識が強いので、その意識にとらわれずにすむような働きかけは必要ですね。

-----図工・美術をもっとおもしろくする「無駄」から生まれる発想法 03へつづく。


藤原麻里菜さん
1993年生まれ。
頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコ ンテンツを広げている。2016年、Google社主催の「YouTube NextUpに入賞。2018年、国外での初個展「無用發明展 ―無中生有的沒有用部屋in台北」を開催、25,000人以上の来場者を記録した。「総務省 異能vation 破壊的な挑戦者 部門2019年度」採択。著書に『考える術』(ダイヤモンド社)、『無駄なことを続けるために』(ヨシモトブックス)、『無駄な マシーンを発明しよう!~独創性を育むはじめてのエンジニアリング~』(技術評論社)

藤原麻里菜 「無駄づくり」

山内佑輔先生
新渡戸文化学園 プロジェクトデザイナー・ VIVISTOP NITOBEチーフクルー 大学職員として数々のイベント等の企画を手がけたのち、 2014年に公立小学校の図工専科の教員に。ワークショップの手法を用いて、子どもたちのクリエイティビティを育む環境をつくり出し、実社会と学びをつなぐ授業を実践。 2020年4月から新渡戸文化学園へ移り、VIVITA JAPAN 株式会社と連携し、「教室や教科、学年などの枠をなくし、 教師も生徒も共につくり、共に学ぶ」ことができる場として VIVISTOP NITOBEを開設。新しい学びのあり方を模索しながら、授業や放課後の子どもたちの活動の拡張に取り組んでいる。SOZO.Ed副代表。

山内佑輔 「考現学研究中」

小西悟士先生
埼玉大学教育学部附属中学校
武蔵野美術大学 造形学部 空間演出デザイン学科 ファッションデザインコース卒業。同研究室の教務補助、 助手を経て、アパレル会社に勤務。さいたま市の公立中学校で美術教諭を務めたのち、現職。「地域に開かれた 美術教育」をコンセプトに、授業で制作した生徒作品を 地域のコーヒーショップで展示する取り組みを2011年より継続中。描くことやものづくりが苦手な生徒でも夢 中になって取り組める授業のデザインに取り組む。全国の小・中学校などの実践を紹介する「図工・美術の授業 展」の開催にも携わっている。

取材・文:安永美穂 撮影:大崎えりや
※この記事は、『BSSカタログ2022』の巻頭特集インタビューを一部加筆・修正・画像追加しています。

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