見出し画像

禍話リライト 「忘れた頃に」「そっくり返ったこと」


禍話の語り手、かぁなっきい氏の元にこんなメッセージが届いた。
 
『「悪行を働けばいつかは自らの過去に肩を掴まれる」とかぁなっきいさんはよく仰っていますが、そういった因果応報というのはどのくらいのスパンでやってくるものなのでしょうか?』
 
送り主は以前勤めていた職場の上司から壮絶なハラスメントを受けており、仕事を辞めた後もその上司がピンピンしていることをとても不条理に感じているという。
 
『このままでは私は精神の安寧を抱けません』
 
そこまで追い詰められている送り主に、かぁなっきい氏はこう答える。
 
「皆さん、人を憎むでしょ? 憎むってことはね、愛情を注いでるのと一緒なんです。憎んでいる限りその人はあなたの“想い人”なんですよ。そうやって思ってる間は決定的なことは何も起きないんです。
何か違う、推し活やら友達やらとはしゃいでいくうちに心が晴れてね『あんな奴どうでもいっか~。自分の人生楽しまないと』って思った時ぐらいに起こるんですよ。今までの感情がそいつに行くんですよ。呪いって。
まさに『忘れた頃にやってくる』んですよ。我々の都合では動かないんです」
 
そういうのってありますよね、と付け加えて彼は以下の話を始めた。
 
 
 
Aさんは小学校の頃、水泳が不得意でよく残され補習を受けさせられていた。
その日もプールの浅い場所で練習していたが、クラスメイトの悪ふざけで一番深いところまで運ばされ溺れかけた。近くに監視の教師がいたので一命はとりとめたが、その主犯のクラスメイトはお咎めなしだった。
他の生徒もAさんの事件などなにも無かったかのように振る舞い、Aさんはとても歯がゆい思いをした。しかし当時の男子として親に告げるのは恥だと感じてしまい、結局はAさんが勝手に深い場所に行って溺れかけたという事にされた。
翌年クラス替えがあり、そこでのクラスメイトはその時の人間はほとんどいなかった。
それにとても明るく愉快な連中で「ここ二階だから植え込みに飛び込んでも大丈夫かも!」と言った本人が飛び込んで結局骨折するといった馬鹿なノリもしていた。
 
「いや~着地のやり方さえ上手けりゃ骨折しないと思ったんだけどな~」
「なにやってんだよ。バカっ」
 
先生と親にとんでもなく怒られたのにケロっとそんな事言う彼に、Aさんはツッコミつつもクラスメイトと一緒に大爆笑した。
それはプールの時も同じで皆各々に大騒ぎするので、Aさんは自分のペースで練習をすることが出来た。もちろん、溺れされるような悪ふざけをされるようなことは無い。
そんな楽しい日々の中、Aさんは去年起きたあのクラスでの陰湿な事件を忘れてしまった。
夏休みが終わり、久しぶりに会う友達と会話しているとクラス委員をやってる生徒がこんなこと言った。
 
「いやぁ、でも隣のクラス大変だったらしいな。夏休みなのに」
「なに? なんかあった?」
「なんか市民プールに行ったんだけど、そこで溺れたんだってさ。普通に泳いでただけなのに」
「ええ? でも市民プールなんてみんな浅いじゃん」
「なんかさ、水流が起きて急に底の方に渦が出来たんだってさ。そこに隣のクラスの生徒が巻き込まれて溺れてさ……死にかけたんだって」
 
そこでこっそりとAさんたちに耳打ちする。
 
「ちょっと後でそのクラス見てみな。夏休み前とは全然違うよ。みんなやつれてるし。その、溺れた奴も……体、戻らないっていうし」
 
暗い話を中断するように、明るい男子生徒が割って入った。
 
「よーし。じゃあ今からみんなで慰めに行こうぜ!」
 
関係ないのに、と思いつつもAさんたちは心配になり例のクラスに向かった。
そしてそのクラスに行き、体が不自由な状態になった溺れた生徒を見たAさんは驚愕した。
 
それは、去年自分を深い場所に引き込んで溺れさせたあの元クラスメイトだった。
 
 
 
「だからね、楽しい事を考えて生きましょうね。どの道因果応報はちゃんとあるんですから」
 
 
 
 
 
 
転載元
 
元祖!禍話 第九夜 (一時間半怪談、残りは雑談です)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/736451141