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行政とスタートアップの連動で市民の暮らしをより便利に。「ガブテック」で都市を活性化させる神戸市の取り組み – 後編

神戸市 医療・新産業本部 新産業課担当係長
三嶋 潤平氏
聞き手:大越 裕

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神戸市はスタートアップの拠点に最高!?

―― 前編のお話で、神戸市のスタートアップと共同で取り組むガブテックの概要がよく理解できました。私(聞き手)は東日本大震災の後で神戸市に引っ越してきたのですが、神戸という街は、スタートアップが拠点を置く候補として、すごくいい場所ではないかと感じています。大阪・京都と合わせれば東京に次ぐ大きな経済圏があり、新幹線は通ってますし、国内の主要都市に便がある神戸空港も三宮からモノレールですぐ行けます。東京はもちろん九州や四国にもアクセスしやすく、また関西圏には優れた研究をしている大学や、理化学研究所、医療産業都市などの研究機関も集積しているので、テクノロジーに特化したベンチャーにとっても魅力です。

三嶋 おっしゃるとおりです。

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―― さらに言えば暮らしの面でも大満足しています。東京のような満員電車はありませんし、大都市のすぐそばに豊かな自然がある。六甲山でハイキングや須磨で海釣りをした日に、三宮で買い物を楽しんで、有馬で温泉につかるなんてこともできますからね。こんなに仕事に暮らしに恵まれた環境は、日本にそうそうないと思うんです。

三嶋 その言葉をぜひそっくりそのまま、東京から拠点の移動を考えているスタートアップの方々に伝えてほしいと思います(笑)。我々の課の隣に席がある企業立地課では、東京などの企業を神戸市に来ていただく誘致活動を行っているので、ぜひアピールしたいですね。
神戸市では2016年から、「500 KOBE Accelerator」というスタートアップの支援活動も行っています。そこに集まる日本国内のベンチャーの経営者たちからも、「神戸に滞在しているうちにこの街が大好きになりました。東京にはもう戻りたくない(笑)」という声をよく聞きます。都会でありながら自然も多く、リラックスして仕事ができるちょうど良いサイズ感を魅力に感じてもらえるようです。

本場のメンターが直接スタートアップを指導

――「500 KOBE Accelerator」では、どんな活動を行っているのでしょうか?

三嶋 神戸の KIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)という施設を会場に、6週間の起業家育成プログラムを実施しています。一番の売りはアメリカのスタートアップ・アクセラレーターとして世界に知られる「500スタートアップス」が実施していることです。シリコンバレーから成功した起業家たちがメンターとして神戸にやってきて、起業の知識やテクノロジーについて、日本のスタートアップの起業家に直接指導を行います。

―― それは刺激的な学びになりそうですね。毎回、何社ぐらい集まるんでしょうか?

三嶋 毎年200件程度の応募がありますが、全社にご参加いただくのは難しいので、選考を行って20社程にしぼり育成を行っています。6週間にわたって講義を受けたり、メンターによるマンツーマン指導を通じて、自分たちのビジネスアイディアをブラッシュアップしていくのが主な内容です。最終日にはデモデイを開催し、投資家の前でビジネスプランを発表し、資金調達を呼び掛けます。

日本にもアクセラレーターと呼ばれる事業を行っている企業、団体はいくつかありますが、私たちの特徴は指導の「密度」にあります。日本で行われているアクセラレーターは、2週間に1度程のペースで指導を行っているものも珍しくありません。、しかもメンターを務める人のプロフィールを見ると、大企業の役員などではありますが、自ら起業した経験がないことも珍しくありません。500 KOBE Accelerator のメンターの多くは、シリコンバレーで何度も起業したことがある「シリアルアントレプレナー」で、成功も失敗も数多く経験しています。期間中は朝から晩まで週5日間、みっちり彼らが教えてくれますので、参加者の満足度も毎回非常に高くなっています。

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―― 6週間にわたってスタートアップの方々が滞在するうちに、神戸が好きになるわけですね。

三嶋 はい、宿泊施設を私たちが紹介することもありますが、Airbnb 等で宿やシェアハウスを見つけて泊まっている方が多いですね。大きな成果もすでに何社か出ており、大手企業に買収という形でイグジットをしたスタートアップがいくつかあります。去年は神戸市医療産業都市との連携を深めるために、医療分野(ヘルステック)を対象にスタートアップを募集したのですが、その中から2社、へそから身体の深部体温を測る技術を開発した「ハービオ」と、MR技術を活用したリハビリ用医療機器を開発する「シャンティ」というベンチャーが、医療産業都市との連携を成立させました。
今年4回目を開催したところですが、神戸市としてはこの事業を通じて世界のスタートアップとつながることで、国内のスタートアップが活躍できる代表都市としての存在感を高めていきたいと考えています。

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スタートアップからの刺激で神戸市職員の働き方も変化

―― そうしたスタートアップとの共同プロジェクトに関わる市役所のスタッフは、何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか。

三嶋 新産業課のメンバーは現在11人いますが、そのうち6人は3年の任期つきの民間出身の職員です。民間の経験がある人とともに働き、またスタートアップの若い経営者の人たちと密接に関わることで、僕たち市役所の人間の働き方もずいぶん良い意味で変わったと思いますね。
アーバンイノベーション神戸では、スタートアップと役所の職員が4ヶ月間密接に話し合いながらサービスを共同開発で組み立てていきます。水と油のような両者がまじわってプロジェクトを進めるのはすごく刺激的で、新しい働き方を学ぶ良い機会になっています。
スピード感があるスタートアップは、縦割りでアナログな従来の行政組織とはある意味真逆の存在ですからね。職員も市民の方と接するときはスーツですが、ふだんはカジュアルな恰好で働いているメンバーも増えましたし、昔ながらの「役所っぽさ」がずいぶん抜けてきたと感じます。

―― 役所の方々にとっても、スタートアップの働き方が改革をもたらしているわけですね。これからのさらなる連携が楽しみです。

三嶋 我々はスタートアップのビジネスをプッシュすること、それによって市民生活が向上することが大事だと思っていますので、できる限りの協力は惜しみません。神戸市が主催で全国のガブテックの取り組みを紹介する「ガブテックサミット」というイベントも開催しており、そこには他の自治体の職員も多数来場しますので、スタートアップにはそこで成果を発表してもらっています。本当は今年も3月にやる予定だったのですが、コロナの影響で延期になってしまっておりまして…。落ち着いたらぜひまたイベントを企画し、全国的にガブテックを盛り上げていきたいですね。

―― おお、それはコロナが終息したら、ぜひ拝見したいです。お話を伺って、神戸市のスタートアップ支援に関する取り組みが、日本の都市の中でもかなり先進的であることを実感しました。新しいものを次々に生み出すスタートアップが集積することで、都市に活力がもたらされることは、シリコンバレーをはじめとする海外の歴史からも明らかです。神戸が日本のスタートアップの中心となることを、楽しみにしています!

(了)

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写真提供:一般財団法人神戸観光局

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