遊び感覚 26~30話
第26話 情動的価値 かつて大英博物館の図書室の一隅で思索と読書に耽っていたユダヤ人がいて、ものには使用価値とか交換価値とか、さまざまな価値のあることを説いたそうだ。大学紛争後の世代とはいえ、私の学生時代には、この著名な哲学者の書物を読みあさる遺風がまだあった。喫茶店で「資本論」の読書会をしているころ、ものには何をもってしても換えることのできない情動的価値があると言い張ったことがある。今にしてみれば、知識も判断力も碌に備わっていない、ただ若いがゆえの自恃の心から発したものであ