親ガチャを外してそうで、そうでもない話
中学生の頃、犬を飼っていた。
犬の散歩コースの中に、私が勝手に名付けた「虐待親子」の住むアパートがあった。
ところでこの犬は、なぜか逆立ちをしながらオシッコをするので、散歩中は誰か見てはいやしないかとドキドキした。
だって何だか恥ずかしいじゃない?
前足をプルプルと震わせて逆立ちをし、5・6歩歩きながらオシッコをする。
誰に教わったのだろうか?
まあいいや。
私と犬は、虐待親子の家の前を通る時わざとゆ~っくりゆ~っくり歩いた。
虐待が行われている家だと、私は思っていた。
しょっちゅう「テメェ!!ナメてんじゃねぇぞ!!クソガキが!!」
と母親が怒鳴り散らし、ドンガラガッシャーーーーン!!!
と家具の倒れるようなものすごい音がしてたりなど、日常茶飯事なのだ。
その度に、子供たちの「うわぁ!!」という驚いた声が聞こえる。
中学生の私はそれが怖くてたまらず、家に帰りその様子を母親や近所のお母さんたちに知らせた。
一様に顔をしかめ、「警察に知らせた方がいいわよね」などの会話がなされた。
でも警察には知らされなかった。
ある冬の日、私は逆立ちションをする犬の散歩をしながら、あの家の前にさしかかった。
虐待されているであろう、子供3人がめちゃくちゃ高い塀の上に立たされている!
落ちたらケガをするくらいヤバイ高さ!
しかも冷たい風が吹く寒々とした日に、半そで半ズボンの薄着で!
私は
「危ないから降りた方がいいよ」
と言った。
子供たちは
「お母さんに立っててみろ!って言われてんだ!」
と誇らしげに答えた。
何という母親であろうか!
私達はしばらく話をしていた。寒いでしょ?風邪引くよ。そこから落ちたらケガするよ。ああ・・・何とか降りてくれないものか・・・。
しばらくすると母親がド派手な改造車で帰ってきた。ドルゥゥゥゥゥゥン!ドルゥゥゥゥゥゥン!と轟音を響かせながら。
髪はロングの金髪で、上下黒のジャージ姿の太った女性。目はナイフのようにつり上がっている。
ああ!怖い!ダンプ松本みたい。
母親は「ョォ!テメェら根性あんじゃねえか!ずっと立ってたんだろうな!?」
子供たちは嬉しそうに「うん!!」と返事をし、勢い良く地面に飛び降りた。
母親は私をギロリと見た後、さっさと家の中に入って行った。
「大丈夫なの?」と1人の子供に聞いたが
「うん、いつもやってるから。いつも飛び降りてる」
と元気な返事が来た。
子供たちがいいなら、外野がやいのやいの言うことではないな・・・。
でも何だかなぁ。
この後しばらくして、虐待親子はどこかに引っ越していった。
数年後、虐待親子と同じアパートに住んでいた人から、あの親子の話を聞くこととなる。
意外であった。
両親は再婚同士。子供たちは連れ子同士。
そして元ヤン。
家族全員プロレスが大好きで、ガチンコのプロレスごっこ(練習?)をしていた。
家具はだからボロボロ。
22時くらいになると親が「ョォ!もう夜だから止めるぞ!さっさとクソして寝やがれ!!」などと言ってお開きになる。
ご近所での挨拶は「ウッス!」「オッス!」
真冬だろうが走れば体は温まる。
ビビることは敗北。高いところに立って、修練を積む。
空手などに通わせたいけれど、お金がないから。
母親の教育方針は、テメェらやる気になれば何でも出来んだよ!ダチに恥かかせんな!だそうだ。
口の聞き方はすごいが、子供たちに一方的な暴力をふるったりなどはない。
子供がイタズラなどすると、元ヤンお父さんがなぜか「高い高い~♪」をする。
月に一度家族全員ファミレスで豪遊をする。「テメエら、好きなもん頼んでもいいけど、残したらぶっ飛ばすぞ!!」とお母さんが言う。
子供たちは「ギャハハハ!」とバカウケしていたそう。
話をしてくれた人は、お互いの連れ子を贔屓しないで育てていたようだった、強烈な親だが面白かった、と言った。
今でもよく覚えている。子供たちの、お母さんを見つけた時のうれしそうな目。あっ!お母さんが帰ってきた!!って、キラキラさせていた。
*ダンプ松本さん大好きです!
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