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多次元の話 その1(1900年頃の思想から)

今では4次元というと、アインシュタインの相対性理論の
影響の為に、4次元目は「時間」だと思い込んでいるふし
がありますが、その相対性理論が出る前の1900年頃は
もう少し状況が違いました。

中沢新一さんの著書「東方的」によると、多次元という思想は
相対性理論が出る前にヨーロッパのアヴァンギャルドな
芸術家達の間でもうすでに話題となっていたそうです。

その中でも分かりやすくその影響を受けた上で、
作品になったのはピカソのキュビズムです。

原田マハさんのルソーの絵をめぐる話「永遠のカンバス」では
ピカソはルソーの絵から着想を得て、キュビズムへ変化した
となっていますが、そもそもその時、ピカソは何に対して
もがいていたのかというと、まさしく絵画として2次元の世界に
3次元のものを描くことに限界を感じていたために、4次元ないし
多次元をどうやって表現したらいいのか?だったのではないでしょうか。

その際、ルソーの日常的3次元を抜け出たような手法に
インスピレーションをもらったピカソは、キュビズム作品
「アビニオンの娘たち」を完成させます。

そこには、複数人の女性が時間的、方向的な3次元の規則を破って
多角的な方向からの視点を一枚のキャンバスに仕上げています。
これは、まさしく2次元のキャンバスに多次元を表現したのだと
はじめこそ感じた作品だったのですが、そののち、この多次元と
思われた視点を無数に増やしていくと、絵のモチーフそのもの
が消えてしまう事にピカソ達は気が付きます。

写真で考えると分かりやすいと思いますが、カメラを開口したままで
天体を撮ると、そこに写るのは複数の円になります。
それはすでに恒星を撮っているのではなくて、軌跡をとっているので
モチーフそのものが変化しているということです。

さらに、ピカソは多次元的絵画であってもエロティズムを求めて
いたのですが、それもこの手法ではかなわない事があり、結局
キュビズムでの多次元の表現から撤退する事になるのです。

しかし、その多次元に対して別口からこじ開けたのは
キュビズムの動きに初めから難色を示していたロシアの芸術家達です。
彼らはキュビズムに対して「そんな事をしなくても絵を見た時に
私達は何かしら感動や記憶を受け取っているじゃないか。
それはもう多次元じゃないのか?」といった問いを投げかけており、
特にウスペンスキーは4次元という感覚を音楽のようなものの中や、
自然を見た時の自分の中に見出します。

それは、アインシュタインの相対性理論が表現した「時間」という
4次元ではなく人の中に生まれる「感覚」を多次元としたという事です。
多次元という認識は、まずこの考え方から始めます。

その2へ続きます。

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