小説の中にたった1行しか出てこない猫たちの逆襲2024😼
ネコから僕への“2024年問題”集
【第二問目】
小説の中にたった1行しか出てこない猫たちの逆襲
その昔、地中海に浮かぶクレタ島では、イカルスが飛行という人類の最も純粋な夢に挑んで神話になった。
それからというもの、人類が、そして国家間が、クレタ島を奪い合う歴史がずっと続いた。
でもクレタ島はずっとそこにあった。
混沌が呼び水となったからか、人類の純粋な主張の形とも言える『小説』が生まれたのもこの島だという説がある。
小説の歴史も時代に翻弄されてきた。
でも生き残った。
しかしその裏で、現代の出版不況のなか、まるで浮き島のような“本の中の1行”を猫たちが日々奪い合っている事実はあまり知られていない……。
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《 》内は、にゃんこ・ザ・ムービーのナレーションのイメージで読んでみてください。
【本編】
《大都会の夜、その片隅に目を向けると、いました。いました。猫さんたちです。集まって何かを話し合っています。ただの野良猫だと思ったら大間違い。実は彼ら、小説の中から飛び出してきた猫さんたちなのです。今夜は仲間内で日頃の不平不満をぶちまけあっているようです。どんな内容なのかちょっと聞いてみましょう》
茶トラ「またオレの出番1行だけだったぜ。この3年でたったの3行だけだぜ。しかも、“物音からの『なんだ猫か』の件」
ハチワレ「僕も1行だよ。『このあと雨か』って言ってもらうためだけの出番さ。顔を洗うシーンすらなしだし。」
ミケ「ミーなんか足跡だけの出番だよ。足跡貸しただけ」
ブチ「どうせなら魚咥えたいくね?」
長毛「アタイなんか『そういえばむかし近所にいた猫』って回想の1行よ。成猫で子役やったわよ」
茶トラ「“小説猫”のなかにはバリバリ主役張ってるやつとか、おしゃべりしまくるやつとかいるのに、あまりにオレらと差がありすぎだろ」
ハチワレ「小説内機会均等法違反ですね」
他「そうだ、そうだ」
ミケ「ミーは、“ひとりの作家の作品にしか出られない縛り”のルールもやめてほしい」
他「そうだ、そうだ。もう、元の小説の中に戻りたくないよー」
長毛「なんかアタイ達が長い行いっぱい登場できるいい方法ないかしら」
ブチ「イワシとアジどっち咥えたい?」
茶トラ「今夜集まってもらったのは他でもない、オレはそのためのある作戦を持ってきたんだ。ズバリ『イカルス作戦』だ」
他「イカルス作戦⁉︎」
ブチ「イカはちょっと…」
茶トラ「どういう作戦かというとオレたちが長年、小説の中で培ってきた勘を頼りにこの大都会のなかからまだ売れてない未来の大作家を見つけて直接オレたちを中心にしたものを書かせるんだ」
ハチワレ「それは、あの実現されなかった有名な幻の上陸作戦になぞらえたものだね」
長毛「うまくいい人に会えるかしら」
ミケ「でも今のままでは今のままだとミーは思うし、可能性に賭けようよ」
他「おー」
ブチ「ハトヤー」
《こうして始まったイカルス作戦。大丈夫かしら。大都会のなかは危険がいっぱい。いい作家さんが見つかるといいけど……》
《さっそく彼らは“作家が愛する喫茶店ランキング”上位の店を当たり始めました。ちょっと単純すぎる発想な気もしますが……、そこは猫の勘。うまく行くことを祈りましょう》
《おや?、ガラス張りの喫茶店のなかの窓際の席にひとりの青年がいます。茶トラがその青年に反応したようですよ》
茶トラ「彼にオレはピンときたぜ」
ハチワレ「どこらへんが、こんな週末の夜にひとりなとこ?」
ミケ「ナポリタンいいなー、ミーも食べたい」
ブチ「ボヘミアーーン」
長毛「たしかにあの人さっきからずっと本のカバーの作者紹介の写真みたいなポーズだわね」
茶トラ「そしてよく見ろ、服に猫の毛が少しついてる。作家といえば猫だ。少なくとも猫好きに違いない」
《みんなで出待ちです。いきなりで1人目で……なんてうまいこと世の中ありますかねー》
店から出てくる青年。かなり念入りにお釣りを確かめている。
すかさず猫たちは彼の足元へ。青年、驚いて立ち止まる。
青年「わー、かわいい猫さんたち。どうしましたー?」
茶トラ「お控えなすって。われわれ、小説猫一派にござる。お控えなすって。そのほう、名のある御方とお見受けした」
他の猫たちも礼儀正しい姿勢。
青年「ああ、オラの名前?オラはブロッコリー展と申しますッス」
長毛「小説家さんですの?」
青年「んー……」
長毛「書けます?」
青年「まあ、そこそこねー」
そこで猫たちは自分たちがここに至る経緯を全て話す。
青年は真面目な顔でそれを聞く。
青年「そういうことなら、オラに任してほしいッスよ」
茶トラ「お控えなすって。ちょっと相談さしてちょんまげ候」
《わかります。わたしもなーんかちがうなーって感じがします》
話し合いで出た主な意見↓
「軽くない?」
「書くもの持ってないよ」
「ペンだこもない」
「なんかオーラとか深みがないのよねー」
「ボヘミアーーン」
話し合い終了。
茶トラ「よし、一応キープしといて次を探そう」
茶トラ「あのー、またなんかありましたら連絡しますんで連絡先を頂けたりしますか?」
青年「いいッスよ。オラはわりと暇だから」
青年と別れる猫たち。再び候補者を探し始める。
《おやおや猫さんたち、派手にお酒を飲むお店にあたりをつけたみたいです。んー、その方向性でいいのかなー。へんなのが出てこなきゃいいけーど》
エレベーター口で待つ猫たち。華やかなお姉さんたちが頭を撫でていきます。
そしてまた茶トラレーダーが何かをキャッチしました。
茶トラ「降りてくるぞ、次だ」
チーン
扉が開きます。
なんと出てきたのは女性たちに囲まれた先程の青年……。
青年「あれーまた会いましたねー。任せて欲しいッスよ」
茶トラ「また、ブロッコリー展かよ。つかブロッコリー展て変なペンネームだな。よし、次行こー」
猫たちはまた次に向かう。
みんなで相談中↓
「けっこうバイトしてたりもするんじゃないか」
「小説家のたまごがバイトしそうなとこもありだな」
「あ、なんかテッシュ配ってるのもらった。『新発売の無重力猫砂のサンプル付きだって』わーい」
「誰が配ってた?」
「あの人だよ…っあ!ブロッコリー展」
青年「いかがっすかー、サラサラっすよー」(配りまくっている)
茶トラ「あいつ、小説の中だったらめちゃくちゃ登場できるポテンシャルあるな、只者じゃないかもな。もうあいつにしよー」
《あー大丈夫かなー。知らないぞー》
猫たち再びブロッコリー展青年のところへ。
茶トラ「あんさん、袖すり合うも他生の縁、躓く石も縁の端、運命が出したゾロ目だ。例の件、頼まれておくんなせえ」
他の猫たちも礼儀正しく、お願いする。
青年「もち、いいッスよ」
成立!
《さっそく喫茶店で書くことになったみたい。書き上がりを待ってる間ナポリタンを食べてます》
青年「タイトルはズバリ、『小説の中にたった1行しか出てこない猫たちの逆襲』ってのはどうッスかね?皆さんそのものが持つテーマ性がとても強いので。シリーズ化とかもいけそうな感じだし」
猫たち「専門的なことは専門家にお任せします」
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《果たしてどんなものが出来上がるのか……、にしても猫さんたちそんなに食べてお腹壊さないでねー》
青年「書けたッス」
猫たち「おおー」
青年「それじゃあ、オラはこれを新人賞に応募してくるッス」
猫たち「新人賞?新人?」
青年「もちっすよ。でもこれは自信あるッス」
茶トラ「オレたちも朝が来る前に一旦、小説の中に戻るから、またで。GOOD LUCK」
小説猫たちは夜のうちしか小説から出られない決まりらしい。
猫たちはそれぞれの小説の中へ帰ってゆく。
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それからしばらく経った某日。
ブロッコリー展青年のブログより
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《さー、今日は最終選考会の日。お家で待つ青年を囲む猫さんたち。結果は電話で知らせてもらえることになっているみたい。猫さんたちの願いは叶うのか、ドキドキしますね》
青年「大丈夫かなー?大賞とれるかなー?」
茶トラ「大丈夫。我々が事前に『作家と猫作戦』を実行して、選考委員が飼っている愛猫たちに接触して便宜を図ってもらえるようにしてある」
ハチワレ「見返りは非売品の“タワマンをちゅーるに変える方法DVD”だよ」
ミケ「いいなー、ミーも欲しい」
ブチ「タフマン!」
長毛「アタイも忍び込んで他の候補作の内容を改竄しといたわよ」
青年「ありがとうッス。心強いッス」
青年のスマホが鳴り、青年が電話を取る。
青年「あ、はい、はい、わかりました。失礼いたします」
電話を切った青年はみんなに向かって手で大きな丸をつくる。
猫たち「やったーーー!」
青年「新人賞獲得と書籍化も決まったッスよー。この賞はわりかし大きい賞だから、もしかしたらそのまま芥山賞とか直森賞とかもいっちゃうかもッス」
「わーい」と一同、大喜びも束の間。
ハチワレが言いました。「でもさ……、僕らが新しい本の中に入るとして、もともといた小説のあの1行はどうなっちゃうの?」
長毛「たしかに、あの1行が成り立たなくなっちゃうわね」
茶トラ「よーし、有利な立場にある今がチャンスだ!この際だから、小説猫の待遇向上と小説内の猫格差をなくすために大作家のところに団交に行こう!」
他「おー」
後日。大作家宅にて。
大作家「べつにいなくてもいいですよー」
😿「oh My ニャー」
ブチ「吟じます。 大作家 歯牙にも掛けない ボク キバニャン」
🐈 🐈⬛ 🐈 🐈⬛
それから数か月後。なぜか怒っている猫たち。
その怒りの矛先はデビュー作がベストセラーになり、一躍文芸スターとなったブロッコリー展に向けられている。
茶トラ「チキショー、あのやろー出来上がったやつ読んでみたら結局オレらの出番が1行に削られてんじゃねーか💢」
ハチワレ「しかもシリーズ化とか言って他の猫を起用するし」
ミケ「しかもしかも、“猫好き読者が選ぶ気になる作家ランキング”一位だし」
あと、“今もっとも猫の気持ちがわかる作家ランキングも1位。
長毛「ノーベル猫文学賞の候補らしいわよ」
ブチが手にしている本は人気絶頂のブロッコリー展が出した最新の書き下ろしエッセイ。表紙の写真は愛犬とのツーショット。タイトルは『毎日がワンコだニャン』。
茶トラ「ゆ、許さん!ブロッコリー展め、オレたちの横の繋がりを甘く見るなよー。よーし、あまねく小説猫たちに共闘を呼びかけて、全ての作家が二度と小説に猫を登場させられなくしてやるぞー。名付けて『ブロークンニャロー作戦』だ!!」
他「おー!!!」
《あらあら、猫さんたち、本気で怒っているみたい。いったいこの先どうなってしまうのでしょう。そして、小説の平和は保たれるのでしょうか……。でもご安心。実はその答えを知るのはとても簡単。あなたが好きな時に本屋さんに行き、新刊を買って読んでみてください。その中にちゃんと猫が登場していたら……無事に解決したということなのです(笑)だけど、どうかこのことだけは心の片隅に留めておいて欲しいのです。あなたの読む小説の中のたった1行だけしか出てこない猫たちの、隠されたストーリーを》
(2問目) 終
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