パパやってきたひとへ(短編小説)
以下、ある職場にて休日にパパやってきた人と息子くらい歳の離れた後輩との休憩室での会話として。
「で、それがさ」
「ええ」
「それがね」
「ええ」
「これだったのよ、これ」
と言ってパパやってきたひとが、意外にもという口ぶりで、人差し指と親指で丸を作った。
「へえ、よかったじゃないですか」
「なかなかいい青年でさ」
「ええ」
「娘にはもったいないくらいのね」
「そんなにですか」
「まあ、それはちょっとおおげさだけど」
「はは」
「でもなかなかの青年だったね」
「どこらへんに、そう思ったんですかね」
「まあ飯の食い方とかね」
「確かにそれは大事ですよね」
「とにかく、娘と幼馴染とはいえ、その後はオレも全然知らないやつだからさ」
「そうですよね」
「女房も娘も全部オレに投げっぱなしでさ」
「なにからどう話をしたんですか」
「ガッチガチよこのオレが。やんなっちゃうよ」
「お父様にごあいさつなんて想像しただけで足が震えちゃいますね」
「なにからどう話したか正直憶えてないんだよね」
「でも、うまくいったんですよね」
「そう、うまい具合にいったのよ、でご飯食べ終えて、デザートが出てきて……」
「え、そこでなんかあったんですか?なんか怖いな」
「デザートのところでよ、やつが突然、核心に触れてきたのよ」
「デザートで核心ですか……。顔合わせの場ですからね、今回は、あくまで」
「そう、そうなのよ。だから、ちょっとまて、と。オレはちょっと待てとそう言ったのよ」
「うん」
「やつが、まだ若くて収入が少ないから、すぐにも転職するとか、まだ研修生の段階のいまの会社を辞めるとか、言い出してさ」
「たしかにそれはちょっと待てとなりますね」
「うん、でな、『おい、それは、娘と結婚するからそういうことなのか』とか、あともうひとつほかにもオレはなんか言いながらすこし前のめりになって、でそこで、女房もなんか感じてオレの腕をこう、ちょっと押さえたりしてさ」
「とてもその場にいられませんね、僕なんかは」
「いいパパやるために今日オレはここへ来たんだってね、コーヒーが出てきてね、それ飲みながらそう思って、それでなんだか落ち着いてね、考えてみりゃさ、娘の……そういうさ、男とさ、向き合って話したりする歳になったんだなって、オレも、じじいになったなぁってさ……」
「そんなことないですよ」
「また落ち着いて、話し始めて、そしたらなかなかいいやつでさ」
「ええ」
「そこで女房が泣き出してさ」
「きっと安心したんですよ」
「まあ、そんな感じでパパやってきたわけですよ」
「すごく晴れやかな顔してますよ、今日は」
「なかなかいい青年だったんですよ、彼は」
「ええ」
「娘にはちょっともったいないくらいのね、いや、それはちょっとおおげさだな」
終
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